You は何しに京大へ?京大で学ぶ海外出身学生にインタビュー

※オリジナルの記事は、これから京大にくるかもしれない海外の学生に向けた英語版で、この記事は翻訳版です。(訳:宮田)

日本で、京都で、建築を学ぶ

3回生の中頃、研究室見学に伺った際、なんと私の志望してる研究室の学生の約半分が外国出身でした。そして、いま、この研究室の学生として過ごすのも二年目に突入し、この状況にも慣れてきましたが、ふと一つ疑問が浮かびました。

海外からどうやって、京大建築を、そして小林・落合研究室を見つけたのだろう?どうして、ここに来るのを選んだんだろう?

そこで、この疑問を解決すべく、研究室の先輩や同級生にインタビューを行いました。この記事では、京大建築の紹介を行ったうえで、海外から見た京大建築の魅力に迫っていきます。

京大建築とは?

京大の象徴である時計台は、京大建築の初代教授でその創設に尽力した武田五一によって設計されました。

京都大学工学部建築学科および京都大学大学院工学研究科建築学専攻を合わせて、「京大建築」と呼んでいます。京大建築は各学年およそ80名の学生がおり、計画・構造・環境の多領域にわたる26の研究室により構成されています。また、京都大学は、1897年に日本で二番目に古い大学として設立され、自由の学風で知られています。その中でも建築学科は国際的に活躍する研究者や建築家を多く輩出しています。

京都というまちにあることも京大の魅力です。794年から1869年までの約千年、日本のみやこであった京都は、今でも日本文化の中心にあり、古い寺社仏閣、伝統工芸に触れることができます。

インタビュー:You は何しに京大へ?

小林・落合研究室の海外出身学生を対象に、京大建築の魅力は何か、そして京大へ来たいま何を思うのかをインタビューしました。なお、小林・落合研究室では、様々な地域資源や在来建築技術、自然災害と人間居住などの観点から、建築とそれを取り巻く環境について研究を行っています。

インタビュー対象者:
Qinglong An(中国、博士課程1回生)、Amanda Devina Sihombing(インドネシア、修士課程2回生)、Yehong Lai(中国、修士課程2回生)、Jayne Tereza Brito Santos(ブラジル、修士課程1回生)、Haifan Zheng(中国、修士課程1回生)

インタビュアー:宮田大樹(日本、修士課程1回生)

宮田- [Q1]まず、京大建築へ来ようと思った理由と、京大建築の魅力だと思う点について教えてください。

Jayne – まず、京都そのものが魅力ですよね。私が特にいいなと思っているのは、鴨川の周りにたくさんあるいい感じの場所です。あと、日本には世界でも最も良いといえる奨学金があるのも大きな魅力だと思います。

Lai – 最初に留学しようかなと思ったとき、日本は文化が中国とさほど違わないので、比較的住みやすいんじゃないかなと思いました。
日本の建築は世界でも有名ですよね。ただ、それは単にデザイン性の高さという点に収まらず、伝統的な建築が多く残っていることにも影響されているんじゃないかと思うんです。私の場合、伝統的な建築に興味があり、日本に来たらそういった場所や伝統的な祭りを体験したいなと思いました。あとは、友達に京大の自由の学風がいいよと聞いたのもありますね。
こんなことを考えて、修士課程は、日本、その中でも京都で過ごそうと決めました。

Amanda – 私は学部でも建築を学んでいて、大学院でも続けて建築を学ぼうと思ったら、ふつう2つの選択肢があると思いました。一つは大学院の修士課程に進むことで、もう一つはそのままデザインの道に進むことです。こう考えたとき、私はそれまでのデザインからある意味で視点を変えて、研究に取り組みたいと思いました。
京大は日本でも指折りの良い大学だと知っていたので、研究に取り組むには最適な場だと考えました。

また、インドネシアでは災害について学ぶための特別な場所がありません。災害についての知識がないわけではないのですが、それを学ぼうと思っても、特に大学ではそういう課程が用意されていないんです……。

宮田 – それを学ぶために日本に来ようと思ったんですよね。

Amanda – そうです。
研究室について話すと、デザインを基礎として研究しているんじゃないかという印象を持つ人も多いと思うんですが、実際には学際的な研究をしているのもとても面白いなと思います。建築と社会問題を混ぜて一緒に研究していて、その問題は災害や政治的な問題だったりするわけです。社会や文化といった観点から背景にあることを聞いていると学べることが多いと改めて感じます。

宮田 – 他の皆さんにも伺いたいです。 [Q2] この研究室に来ようと思ったのはなぜですか。

Jayne – 研究もプロジェクトも魅力でしたね。私は風土建築を研究したいと思っていたので、それができる研究室はここだろうと思って、ここを選びました。

An – 私が学びたいと思ったことは二つあって、一つ目はどうやって日本人が歴史的な建造物を保存しているのかということです。これは日本の得意分野の一つだと思います。もう一つは防災に関することで、日本には災害知がありますよね。
博士課程では、この二つのことを結び付けたいと思いました。だから、京大の中で近い分野の研究をしている先生を探して、落合先生にたどり着いたんです。

宮田 – そういう経緯だったんですね。 [Q3]日本に来る前の経験や考えで、これはこの研究室に来ることにつながったなと感じるものはありますか。

Lai – 私は実家が客家(ハッカ)という中国の伝統的な住宅なんです。ちなみに客家はいまの研究テーマでもあります。
ふるさとがだんだん発展していくなかで、伝統的な建物も装飾や外観がだいぶ変わってしまいました。そういった中で、目の前で起こりつつある変化を分類できないかだとか、変化を制御できないかだとか、政府から支援を得られないかだとか、いろいろ私なりに考えました。きっと、こういったことに私は関心があるんですね。

Jayne – 私の場合、学部の卒業論文のテーマが緊急時の避難施設についてだったことでしょうか。いまも洪水時にどう住宅が対応できるかをテーマとしています。

Haifan – きっとこの質問で聞きたいのは、私たちのバックグラウンドかなと思うんですが、私の場合、日本人の学生さんとあまり変わらないと思います。私が学部時代を過ごしたのは、同済大学で、中国の建築系の大学では最大規模の大学です。

宮田 – ということは、卒業制作もしましたか。

Haifan – 私の卒業制作は、古いまちでのリノベーションです。古い映画館をどうすればコミュニティー施設へと新しく生まれ変わらすことができるのかがテーマでした。
風土建築とのつながりは実務での経験にあります。木構造の住宅と関わることがあったんです。そのとき、風土建築と現代のデザインとの間の関係性について深掘りしたいと思いました。

宮田 – [Q4] 実際に京大建築に来てみて、期待してたことはできましたか。

Haifan – できていると思います。同済大学は新しいことに重点を置いていたと思います。高密度な都市の中での問題に取り組むことを大事にしてましたね。
一方、京大では、一部の先生だけかもしれませんが、持続可能性に関わる問題に取り組んでいる先生に何人か出会いました。例えば、自然環境に関わっていくかだったり、歴史ある地域とどう寄り添っていくかだったり、新旧の関係や都市と地方の関係の中で折り合いをどう見つけるかだったり、そういうことをしている先生がいますね。

Jayne – 研究室の環境をみてみても、研究に集中しやすい環境だと思います。なによりきれいですし、使えるものも多く、インターネット接続も良いですね。ゼミ室やデザインルームも使うことができ、こうした場所はとても良い空間だと思います。いま挙げたすべてのものが、勉強の質を上げたり、研究を進めたりする上で、大いに役に立っています。
あとは、正直に言うと、来日前は日本人にすこし冷たい印象があって、日本人と仲良くなれなかったらどうしようと心配していました。でも実際は真逆で、みんなとても親切でやさしいです。

宮田 – どういたしまして。人間関係といえば、[Q5]先生方への印象はどうですか。

An – 先に少し研究室の特徴を共有した方がいいかなと思います。先生方はいつもプロジェクト、もっといえば設計などの実務をしています。前に落合先生のスケジュールを見たことがあって、予定帳がびっしり埋まってたんです。なにより驚きなのは、一つずつプロジェクトをこなしているのでなく、同時にいくつかのプロジェクトを進めていることですね。
もっと個人的な話をすると、はじめて研究室に来た時、小林先生にリラックスしなさいと言われたんです。まあ、あまり落ち着いていると3年で博士課程を終えることはできないんですが(笑)。それでも、日本について博士課程をはじめるという不安なときに、気持ちを和らげて頂いたことには感謝してもしきれません。

Amanda – 私の場合は、何より指導教官の落合先生に感謝しています。というのも、いつも私が考えを広げようとするときに、どうすればいいか教えていただいているんです。研究する中で考えたことや興味をもったことの話をしていると、ここぞというときに話を止めてアドバイスを下さります。どこで考えを広げればいいか、それを本当によくご存知です。少なくとも私の場合は、議論の質を高いレベルへ押し上げていただいていると思います。
小林先生の最初の印象はとても面白い人ということでした。例えば、日常会話でも、先生の答えや反応は面白いです。こういう会話はこういう会話でいいんですが、いざ研究の話になると、建築的観点から非常に正確で鋭いご意見をお話しになります。先生は経験も豊富なので、私の思いもしないようなことを教えていただいて、非常に研究の助けとなっています。

宮田 – 先生方のお人柄はAmandaのコメントによくあらわれているなと感じます。みなさんインタビューへのご協力ありがとうございました。

インタビューの様子。

京大建築に来ませんか?

インタビューをして改めて、環境や研究室、京都の歴史などの魅力のある京大建築は、最高の学び舎だと思いました。この記事が少しでも、京大建築について知る手助けになっていれば幸いです。

なお、この記事では小林・落合研究室に焦点を当てて、海外からの学生の視点を紹介しましたが、他の研究室にもたくさんの海外からの学生がいます。もっと詳しく知りたい場合は、下のサイトを参照ください。

▼京都大学の建築系の英語サイトです。(日本人の方も興味あればぜひ!)
https://www.ar.t.kyoto-u.ac.jp/en/index.html?set_language=en

登場人物

小林 広英 | 教授(人間環境設計論分野)

大阪市出身。1992年京都大学修士課程修了(川崎清研究室),英国留学の後,1993年より設計事務所勤務。2002年の大学院地球環境学堂設立とともに京都大学で実践的研究活動を開始。小林正美教授(当時)に師事。地域に根ざす設計技術・環境デザイン,地域文化・風土と人間居住の相互作用のテーマに取り組み現在に至る。

落合 知帆 | 准教授(人間環境設計論分野)

米国カリフォルニア大学デービス校にて社会学を学び、開発コンサルタントにて途上国での開発プロジェクトに従事した後、2008年4月から京都大学大学院地球環境学舎(修士課程)に学び、博士を取得。日本や米国、東南アジアを対象にコミュニティ防災、災害後のコミュニティ再建、災害伝統知について研究している。

杉中 瑞季 | 助教

石川県出身。学部時代は高松伸教授(当時)に師事し、大学院で本分野研究室に所属。修了後はスイス・日本の設計事務所に勤務し、意匠設計に従事。2017年より小林広英教授らの調査研究に携わり、2022年から大学院地球環境学堂に所属、本格的に研究活動を開始。趣味は各地の集落・建築探訪をすること、路上観察、スケッチ。建築や町並み、人の営みが生み出す暮らしの風景を読み解き、今後の在り方に寄与する設計や研究に取り組みたいと思います。

この記事の研究室

小林・落合研究室

地域に根ざす設計技術・地域に根ざす人間居住