まずは何を建てるかを考える
毎年初夏、さまざまな大学の複数の研究室が都市リサーチと設計に取り組む「都市アーキビスト会議(IoUA)」。2018年は近畿圏を中心とする12大学14研究室が参加しました。IoUAの特徴は、チームで取り組むことと、設計のみならずリサーチも成果として発表することです。一般的な設計課題では、1人で提案をまとめ、そして敷地や設計条件も与えられていることがほとんどです。しかしIoUAの場合、それらが「何もない」ところから考えなくてはならないのです。
京都大学チームは私たち田路研究室から参加した2名が中心となって進めていきました。今回の課題は「新しいアーティストインレジデンス(AIR)」でした。最初に与えられた情報はこれだけです。ここから学生たちだけでリサーチと設計を進めていきます。
「AIRって何?」と皆さんも思われたかもしれませんが、私たちもそれが何かわからない状態からのスタートでした。そこでまず、AIRが何かを徹底的に調べます。AIRとは簡単に言うと、世界各地からアーティストを招待しその街に滞在して作品を作ってもらうための、作業場つき宿泊施設のようなものです。
建築と街の関係を明らかにする
全国各地100以上あるAIRを調べ上げ、どんな部屋が必要なのか? それはどんな配置になっているのか? 規模や、建っている場所はどこか? というたくさんの情報を、たった1つの絵で表します。
その絵はダイアグラムと呼ばれるもので、建築の説明でよく使われるものです。情報を視覚化して分かりやすく表現し、分類しやすくします。視覚化することで、チーム内で統一された情報を共有することができ、その情報を設計の段階での議論の中で取り込みやすくする狙いがあります。こういった地道な作業から設計を始めることにしました。「アートの力で街を再生するための施設」という目標は頭に置きながら、AIRを分類し、「AIRがどのように街とかかわってるか」を明らかにしていきます。
敷地を調査してやっと設計へ!
そして想定する街のことを調べます。私たちは空き地や古い民家の残る東九条地域を想定しました。京都駅近くであるポテンシャル、芸術大学が誘致されること、などアートの街として再生できないかと考え始めました。街のことと、AIRのこと、その両方を詳しく調べることで初めて、その関係を建築としてどのように作るかを考えることができます。
このように、最初から形を考えるのではなく地道なリサーチに基づいて考えることで「街をより豊かにする建築」を提案する必要があります。
これまでの調査で明らかになった、AIRの主な機能である、宿泊機能、作品展示用のギャラリー機能、作品制作用のアトリエ機能、それらのつながりと、建ち現れ方が街によって変わっているというAIRと街の4つの関係に沿って4つの設計を考えました。
・宿泊、展示空間と制作空間のあいだの流動性を作る
・3つの機能の間に街が入り込む余地を街のランドマークとして作る
・3つの機能を街全体に散りばめて作る
・アーティストのために、街と適切な距離を作る
この4つはそれぞれ、作品の展示過程、制作過程を街と共有したり、アートを通じて街の人々とアーティストの関係を作り上げるのに寄与しています。「AIRと街の関係」という言葉で表される情報を、ダイアグラムとして視覚化し、建築としての形に近づけていきます。この過程を何回も何回も繰り返して、ついに完成を迎えます。ここまでの進め方や、考え方、スケジュールまで学生の自主性を重んじて取り組むことができることが最大の特徴です。
他大学との交流も
この課題は、ほかの大学の研究室でも取り組んでいて2週間に1回16研究室程が集まって、各先生方や学生から成果報告と講評をいただきます。私たちの考え方に対して予想もしないコメントをいただいたり、ほかの大学の課題に対してコメントしたりすることも。そうして色んな視点を取り入れながら設計を進めることができます。
最終講評では学生同士のディベートを実施して、自分の課題以外についても考えることでより深く、「街をより豊かにする建築」について考えることができます。豊かな街って何だろう? 建築にできることは何だろう? という素朴で難しい疑問を考えることができる機会になっています。