ゼロ・エネルギー・ハウスを6大学で競い合うエネマネハウス 京大が最優秀賞を獲得!

環境問題が潮流にある現在の建築業界で、その対象はビルや大規模建築に留まらず、住宅にも広がっています。ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)を学生たちが設計し、実際に建てて提案した家の環境評価を行うコンペ、エネマネハウス2017で最優秀賞を獲得した京大チームの提案を紹介します。

完成した「まちや+こあ」(撮影:笹倉洋平)

ZEHとは健康で快適、地球にやさしく賢い家である

ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指した住宅のことです。近年大きな注目を集めており、さまざまな大学や企業が研究や技術開発に取り組んでいます。その研究成果を集約する催しとして、大学や企業が連携して未来のZEHを提案し、実際に建築する「エネマネハウス」というものが2014年から開かれています。

第3回目となるエネマネハウス2017では京都大学、近畿大学、芝浦工業大学、首都大学東京、武庫川女子大学、早稲田大学が参加し、鉄骨造や蒸暑地域等を対象にしたもの、ライフスタイルやリノベーション等に焦点をあてたものなど挑戦的で個性的な家が立ち並びました。

京大からは環境系の小椋研究室、計画系の柳沢研究室が主体となり、メーカーや設計事務所など計24の後援/協力企業と合同で参加しました。

意気込んでいる京大メンバーの写真です。この後のプロジェクトの多忙さを知る由もなく、、、、

意気込む京大メンバー

エネマネハウス2017の京大の作品を紹介する前に、まずはどのようにZEHを達成できるかという点について簡単に述べていきたいと思います。①使うエネルギーを極力減らす ②供給源から最終的な使用にいたるまでのエネルギー利用を高効率化する ③再生可能エネルギーを利用するという3つの事をクリアしていくことで、消費した分と創った分の正味のエネルギーが0になり、ZEHが達成できます。

具体的に説明すると、まず家の中を快適な環境に制御するためのエネルギーを削減するには、外皮に断熱材を設けることによって家の外と内の熱の移動を抑制します。

断熱材とは、一般的には、熱の移動が小さい空気が多く含まれるように空隙を多く含んだ材料です。また、最新の材料として、空気そのものの熱移動を抑えるように工夫されたものもあります。

断熱は、人の健康にとっても大切なことです。例えば、温かいリビングで過ごした後、お風呂に入ろうとして廊下に出るととても寒さを感じることがあると思います。この急激な温度変化は体に大きな負担を与え、最悪の場合、死に至るヒートショックを引き起こします。住宅内でしっかり断熱を行えば温度ムラがない一様で快適な環境を作ることができ、体に優しく、快適に暮らせることができます。

次に、エネルギー利用を高効率化するためには高効率の設備を導入します。今までは供給源のエネルギーが最終のエネルギーの形で消費されるまでにたくさん熱が損失されていましたが、近年その浪費を抑えるさまざまな機器が開発されています。

例えば、家に供給された都市ガスを熱エネルギーに変換して水からお湯をつくる際、一部の熱が使われることなく排熱として捨てられていました。しかし、近年ではその排熱を改修して再びお湯をつくるエネルギーに活用する技術が進んでいます。ほかにも、燃料電池を利用することで、電気を作り出す際に発熱反応によって生成される熱を取り出すシステム等も広まっています。このように高効率設備の導入によりエネルギー変換のロスを抑え、二酸化炭素排出を減らすことでき、地球にやさしい家となります。

第三段階の再生可能エネルギーを利用するためには、太陽光パネルで実現できます。それは環境のためというだけでなく、自分たちにとっても光熱費を抑えることができますし、かつ余った電力を売ることができます。かしこい家と言うことができるでしょう。

この3段階で設計を考えれば、ZEHを実現させることができます。

町家の空き家増加に伴う地域コミュニティの結びつきの減少に注目

では今からは京大チームの「まちや+こあ ZEHコアによる町家・コミュニティ再生モデルの提案」を解説していきたいと思います。

京都では昔から、地蔵盆や町内会など、町単位で都市生活に関わってきました。しかし今やそのような地域コミュニティの結びつきは、町家の空き家の増加とともに薄れつつあります。そこで今回京大チームは町家と地域コミュニティの再生をテーマに取り組みました。住人の設定はアクティブな高齢者と大学生です。大学生は高齢者の生活や地域イベントを手伝う代わりに、安い賃料で入居できます。

プロジェクトで建てる家は新築ですが、提案としては改修案なので、実際に京都に存在する町家の平面図から改修図面を書きました。改修により、道路側には地域に開いた土間を、奥には省エネで快適な生活空間「ZEHコア」を設けました。

既存の図面と提案の改修図面
まちやコアの模型

「コア」を設けることで、快適な中間期には建具を開いてコアの外にも生活空間を広げたり、地域イベントの時には家全体を道に開放したりして使うことができます。また、寒い冬には建具で仕切り、土間で地域の人と交流しながらもコア内は暖かい空間が保たれます。

開放された室内の様子(撮影:笹倉洋平)

伝統的な意匠と新しい環境技術を融合した未来の町家

空き家が年々増えている原因の一つに、町家の暑さ、寒さによる住みにくさが挙げられます。一方で町家を改修するにあたり、それが持つ日本建築の伝統的な装いは壊したくないと考えました。そこで私たちは伝統的な味わいはそのままに、さりげなくZEHを達成させる手法を提案しました。

まずは、家の断熱です。私たちは2種類の新しい高性能な断熱材を用いました。「真空断熱材」と「エアロゲル」です。

真空断熱材というのは断熱材の内部圧力を真空度1〜10Paへ減圧することにより、気体の熱伝導を低減させた断熱材で、平均的な断熱材の20倍以上の性能向上を達成します。断熱材の性能が高ければ高いほど、同じ熱抵抗を満たす断熱材の厚さが薄くなります。

日本の家は、今では柱が壁の中に隠れた大壁造が普通ですが、町家では柱を見せる真壁造であり、部屋に圧迫感を感じさせないのが伝統的な良さとも言えます。このような真壁造を残すため、私たちは高性能で薄い真空断熱材を柱間にはめ込む方法を考案しました。この使い方によって、「真空断熱材はアルミ金属のような表面であるが、柱の面より前に出ていない事で、圧迫感を感じない」という評価もいただきました。

左側の壁に、柱間の壁に取り付けた真空断熱材が見える(撮影:笹倉洋平)

2つ目の新しい高性能な断熱材は「エアロゲル」です。エアロゲルというのは構造体の名称ですが、90%以上の気孔率を有しており、その極めて小さい細孔構造により、構造内の気体の対流や分子の熱運動量交換が起きず、断熱材としても用いることができます。また、低密度で高い可視光透過率という特徴ももっており、パネル状のもののほかにも粒状をしたエアロゲルもあります。

私たちはその高断熱性、軽量、光の透過性、粒状という特徴を最大限に生かして町家に欠かせない障子の建具と土間を作成しました。

普通の障子というのは和紙であるので、断熱性能はあまり期待できません。私たちはそれに代わる建具として、透明なアクリルケースにエアロゲルを充填し、光の透過性と断熱性の両方を有したエアロゲル建具を作成しました。うっすら壁の向こうの人の気配が感じられる障子のような味わいの建具です。

和紙の代わりに粒上で半透明なエアロゲルをアクリルケースに充填したものをはめ込んだ障子。透過性と断熱材を持つ。(撮影:笹倉洋平)

また、このような新しい提案をする際には既存の商品というものがないので、「自分たちで一から作る」というものエネマネの楽しみの一つでした。今回はエアロゲル障子やエアロゲル土間という既存のものはもちろんなかったので自分たちで作成しました。

エアロゲル障子作成の様子
エアロゲル土間作成の様子

創エネについても工夫をしました。太陽光パネルは通常屋根の上に乗っていますが、それでは京都が大切にしている景観を損ねてしまう可能性があると私たちは考えました。そこでシート状の太陽光ソーラーをルーフィングの上に引き、その上に日射を透過するガラス瓦を乗せるという手法を提案しました。下の写真の屋根の上には右側に太陽光パネル、左側にガラス瓦とその下に太陽光シートを載せてありますが、左側はあまり目立たないので京都の街並みを壊すことはありません。

屋根の上には右に太陽光パネル、左に太陽光シート+ガラス瓦が乗っている。(撮影:笹倉洋平)

このように既存の商品を新たな組み合わせで用いることで、伝統的な意匠と新しい環境技術を融合した町家を実現させ、審査委員による評価と測定結果の評価をあわせた総合評価から最優秀賞を獲得することができました。

エネマネハウスは設計段階で終わらないから難しい

建設中の様子。場所は大阪駅前・うめきた2期区域。2017年10月23日〜11月10日に建物を建て、11月18日〜28日に実証し、12月2日〜17日に一般公開された。

エネマネハウスでは、机上の空論で終わらず実際に建てて検証する点に学びがありました。検証結果として良かった点は、自然材料、例えば木や土壁の蓄熱、調湿効果のおかげで予想よりもエネルギーを使わず室内環境がよい範囲で保たれたことです。悪かった点はガラス瓦の下の桟に日光が遮られ設計段階で推定していた創エネルギー量を運用段階ではかなり下回ってしまったことです。このように設計段階では環境にやさしい建築と認定されても実際に運用してみると違う建築はたくさんあるのではないか、、、ということを痛感しました。真のゼロ・エネルギ—・ハウスを目指すには設計、運用検証、そして住人の住み方などあらゆる角度からのアプローチの必要がありそうです。

以上エネマネハウス2017の報告でした。

この記事の研究室

小椋・伊庭研究室

人の暮らしと文化を守るため、建築に関わる熱湿気問題を解く。

柳沢研究室

フィールドを通じた研究・実践から、固有性と多様性を備えた豊かな居住をめざす