京大建築学科の設計課題 どんなもの? 何を設計するの? すべて教えます。

建築学科と言えば、とにかく設計課題で忙しい!というイメージがあるのではないでしょうか? 噂の設計課題とはどんな場所に、何を設計する、どんな課題なのか、私たちが1回生から4回生まで取り組んだ課題をすべて紹介します。

1回生 まずは製図の基礎を学ぶ

高松伸「織陣Ⅲ」立面図ドローイング 鈴木保澄

・1回生前期 CG課題・ドローイング

前半のCG課題はパソコンがずらっと並んだ演習室で、ArchiCADという3D設計ソフトを使ってアメリカのシカゴにカジノ街を設計するというものです。10人ほどでグループを組み、ホテルや遊園地、カジノなど、それぞれ何を作るか分担し、時には協力し合いながら作業します。入学したばかりの状態でのグループ作業なので、ここで同期との距離も近くなります。

後半のドローイングは高松伸の「織陣」「ARK」、フランク・ロイド・ライトの「落水荘」の3つの作品の中から好きなものを1つ選び、A1の大きな紙に鉛筆の斜め45°の線だけで立面図や平面図を描く課題です。斜め45°の線を引き続け、鉛筆の濃淡だけで建築の形や陰影までもすべて表現するのはとても根気のいる作業ですが、出来上がった時の達成感はひとしおです。

・1回生後期 基礎製図・9坪ハウス

前半は岸和郎の「KIT」「HU-TONG HOUSE」「深谷の家」の3作品のうち、1つを選んで平面図、断面図、立面図をトレースし、その模型も作るという課題です。濃く太く描くべき線、細く描くべき線などを意識しながら、図面表現の基礎を学びます。模型作りはスチロールペーパーなどの材料をカッターで切ってノリで貼り合わせて…と細かく、根気がいる作業ですが、慣れていけばとても楽しいです。これ以降の課題は図面だけではなく模型でも表現していくことになります。

後半は戦後の高度経済成長期、増沢洵によって考案された「最小限住宅」に習い、「9坪ハウス」を設計します。その名の通り、建築面積9坪という狭さの中に、最小限でありながら豊かな生活を考えるという課題で、毎週、自分で考えたテーマや図面、模型などを1人1人、順番に先生に見せてアドバイスをいただく「エスキス」というものを初めて経験します。初めての設計らしい課題で、自分が住むならどんな家がいいだろうか、と想像しながら形を考えていくのはとても楽しいです。

2回生 空間を設計する

三枚の写真課題 小坂知世

2回生以降は完成した作品を廊下に展示し、先生や友人に見てもらうという機会があります。

・2回生前期 3枚の写真・祈りの空間・触発の空間

前半と後半で、3つの課題のうち2つに取り組みました。

3枚の写真の課題では、自分の好きな写真をなんでも3枚選んできて、その写真を展示する空間を設計します。設計と言えば一つの建物の形を作ることを想像しがちかもしれませんが、鴨川の飛び石の中に写真を埋め込むというものや、商店街の地下に細い穴を掘るなど、とても自由に考えることのできる課題です。

祈りの空間の課題も敷地は自分で設定でき、自由な課題となっています。祈りの空間と聞くと教会を思い浮かべがちですが、必ずしも教会にこだわることはなく、どのようにすれば人々がそこに立ち止まり、想いをはせる空間となるかを考えるという課題です。

・2回生後期 住宅課題・小学校課題

前半の住宅課題では、動物の家、郊外の家、ペントハウスの3つの課題のいずれかに取り組みました。ここでは私が取り組んだペントハウス課題を紹介します。ペントハウス課題は京都市役所前のホテルオークラの屋上に家を設計するというもので、住人は自分で決めることができます。住人は実在の人物である必要はなく、私はジブリ映画の「風立ちぬ」の主人公、堀越二郎の家を設計しました。

後半の小学校課題では京都河原町丸太町の廃校となった小学校の敷地を対象としていました。小学校は地域と密着した存在であることから、その地域を深く読み解く必要があり、地域の人が使える場を作ることが条件となっていました。小学生が不便をせず、かつ他の小学校とは違った楽しさを感じられる空間を考えます。

ちなみにここまでの課題は必修科目となっており、将来環境系や構造系に進もうと思っている人も、すべての京大建築学科性が必ず通る道です。提出直前は模型や図面の制作に忙しく、徹夜するということもありますが、自分の手で自分の考えていることを建築という形に表現するという経験はなかなかできない、貴重なものだと思います。

※2014年入学の学生に対する課題の一例です。同時並行の複数課題である場合もあり、毎年適宜見直されています。

3回生 機能のある建築を設計する

美術館課題 小坂知世

・3回生前期 美術館課題・音楽堂課題

3回生前期の前半は、鴨川沿いの敷地に美術館を設計します。展示室は様々な大きさや種類の展示物に対応できなければならないなど制約がある中で、京都の中心地であり鴨川の目の前という敷地の特異性を生かした設計を考えます。

後半の音楽堂課題では班分けがなされ、それぞれの先生が出す課題に取り組みます。私は京都の木屋町にライブハウスを設計するという課題でしたが、他にも仮設の音楽堂、クラシックのための音楽堂など先生方が専門とされている分野や敷地の特徴が出るので、バリエーションが豊かです。また、音響的にも豊かな音楽堂となるように、環境系や構造系の先生方による講義やエスキスがあり、どのような形にしたら音がうまく伝わるか、丈夫な構造となるかという視点を設計に生かしていくことができます。

・3回生後期 集合住宅課題、media complex課題

前半の集合住宅課題では西院の子連れの多い住宅街に集合住宅を設計します。プライベートスペースと共用スペースがどのような関係を持ち、一戸建てや普通のマンションでは体験できない豊かな暮らしを実現するにはどうすればよいかについて考えます。また、暮らすということはその地域に強く結びつくことであるという点も無視できません。

後半のmedia complex課題では、梅田の茶屋町に図書館や劇場など様々な機能をもつ文化複合施設を設計します。様々な年齢、国籍、価値観の人々が集まり、出会うという公共性をもつ場所を考えるというこれまでで一番大きな規模の課題です。

4回生 スタジオ課題・卒業設計

卒業設計 三浦健 「祀りのために」

4回生からは研究室に配属され、構造系、環境系、計画系に明確に分かれていきます。主に計画系の研究室に所属する人がこれらの課題に取り組むことになります。製図室も桂キャンパスに移り、より広いものになります。

前期のスタジオ課題では、担当の先生(主に所属研究室の教授や準教授)が出す課題に取り組みます。テーマは各々決まっていますが、課題によっては何を設計するかは自分で決められるものもあり、これまでと比較して自由な課題となっています。ちなみに私は地元の商店街を保育園や福祉施設にリノベーションするという計画を考えました。これまでより少し長い期間を使って一つの課題に取り組むことができるため、より考えを深めて表現することができると思います。

後期は5カ月かけて卒業設計に取り組みます。これまでの集大成となる課題なので皆気合いが入ります。テーマも敷地も、何を設計するかもすべて自分で考えなくてはならないのは難しいですが、自分の中にある問題意識や、これまで経験してきた課題を通じて考えたことなど、何でも好きなことをテーマにし、表現することができます。完成した作品は桂キャンパスの廊下やエレベーターホールに展示し、講評会で大勢の先生に講評していただくことができます。そのほか、学外の卒計展に出展するなど、自分の考えや作品を外部に発信する機会もたくさんあります。

以上が私が学部生で取り組んできた設計課題です。

これだけ課題をしているとうまくいかないことや、行き詰まることは誰しもたくさんありますが、将来どういった仕事に就くとしても、自分の考えたことを表現するという答えのない問題に取り組んだ経験はこれからも生きていくのではないでしょうか。