良い音環境とは?
日常生活には様々な音が溢れており、それらはときに心地よい感情を、ときにストレスを引き起こします。建築を設計する立場としては、当然音環境を”良い”ものにすることが求められます。しかし、音環境の良し悪しというのは心理的なものであるため一概に数値では語れず、例えばコンサートホールと講義室とではそもそも求められる環境が異なります。
現実に適応した評価をするための、”音環境の可聴化”
例として、講義室を設計することを考えましょう。音の観点から見ると、講義室では、講義をする人の声が聞き取りやすい環境を作ることが最も重要です。この時、一般的には、どのくらい音が響くかを示す”残響時間”というものを参考にします。あまりに音が響いてしまうと、講義者が何を言っているか聞き取れなくなってしまうため、この残響時間を短くすることで講義室に適した音環境を設計することができます。しかし、「残響時間が○秒になります」と言われても多くの人にはいまいちピンと来ませんし、実際にどういった聞こえ方をするのかもわかりません。
そこで、その講義室にいた時どのように音が聞こえるか、ヘッドホンやスピーカを用いて実際に体感できるようにする、これが”音環境の可聴化”です。音環境の可聴化が実現すれば、誰でも、より現実に適応した音環境の評価を行うことができるようになります。
音環境の可聴化を実現するために
音環境の可聴化を実現するために必要なことは2つあります。
まず1つ目は、完成後の建築内部の音環境を正確に予測することです。室内では、壁や天井などからの反射、また回折などにより複雑な音場が形成されます。こういった反射、回折した音は空間の情報を把握するための情報となるため、これらの情報を正しく予測することが必要です。
そして2つ目は、予測した音環境をリアルに聞くことのできるシステムを構築することです。人は、左右それぞれの耳に入ってくる音の情報を利用して、その音がやって来た方向を特定します。つまり、その情報をラウドスピーカやヘッドホンを利用して人に知覚させることができれば、あたかも予測したその環境の中にいるかのような体験が可能になるのです。
音環境の可聴化が実現すれば、建築において音環境の評価をするだけではなく、遠隔地にあるコンサートホールでの演奏をそこへ行かずとも体験できるようになったり、実際には建つことのない、所謂アンビルト建築の音響をも楽しむことができるようになったりします。