省エネで快適な建築をめざして その調査方法と対策考案にいたるまで

空調・給湯など建物内で消費されるエネルギーは年々増加しています。快適な空間を維持しつつ地球環境にも配慮した建物を実現するための研究を紹介します。

敷地の気候や建物の使われ方によって省エネルギー手法は異なる

 建物の省エネルギー対策を提案する際にはまずその建物がどのような環境にあるか、どのような用途でエネルギーが使われているかの現状把握しなければなりません。例えば事務所では空調や照明に多くのエネルギーが使われる一方で、住宅では給湯に占めるエネルギーがかなり大きく、改修を行うべき対象がそれぞれ異なります。また外気の温湿度や日射量の異なる温暖地域と寒冷地域でも負荷となるエネルギーの大きさが異なります。

 そういった各建物ごとの傾向を知るため小椋研究室では入念な現地調査から研究を始めます。 対象となる建物の用途別エネルギー消費量を把握し、エネルギー消費が大きい系統を特定することを目的とします。ある調査では 給湯・温水システムの各部温度と流量、システム内のポンプの電流値の測定、熱源の排ガスの分析、重油・電力消費量、室内温熱環境のヒアリングを行いました。実測によって、熱の損失が大きい実態などの予期しない結果も得ることができます。

 その後、効率化できそうな系統や設備の候補を挙げ、実現性の高い対策について検討していきます。

実測によって算定した用途別エネルギー消費量

人が快適と感じる建物の温熱環境とは

また建物の省エネルギーを図ると同時に、建物内の利用者が感じる快適さを維持することも求められます。人が快適と感じる建物熱環境に影響する要素は室内温度、室内放射温度、湿度、気流速度という物理量とその人自身の着衣量や代謝量と言われています。それらの値を入力すればその人が快適環境にいるのかどうかがわかるPMVという快適指標がありますが、その他にも人の快適性に関係するものは年齢、性別、民族、体質などたくさんあり、実際の建物利用者がその範囲を快適と感じるかどうかは不明な点があります。

この複雑さの中で利用者にとって快適な環境の範囲を導くため、建物内の建物利用者に対して温冷感と快適感のアンケートを行い、アンケート結果と指標を比較し、どのような温熱環境を利用者は好むのかということを明らかにします。下の図では快適指標がやや暖かい方(1や2)に示しているときに、温冷感がちょうどいいこと(0の数値)を示しているので、ここの利用者は暑さを好む傾向があることが分かります。

PMV指標と実際の温冷感の差

省エネルギーと快適性の両立

 私たちはエネルギーを浪費することなく、快適な建物環境を創造することを目指しています。その両方を満足する建物にするため、まず使われずに損失されてしまっているエネルギーを削減する事や、冬に暖房をしている部屋の窓を開けている事等の無駄なエネルギーの浪費を抑え、さらには効果的な方策を仮定しシミュレーションで検証します。研究室所属3年間に実際に改修することもありますし、シミュレーションでの提案で終わることもあります。

この記事の研究室

小椋・伊庭研究室

人の暮らしと文化を守るため、建築に関わる熱湿気問題を解く。