建築物は、作っておしまいではありません。 2つの高齢者施設で使われ方を調べ、計画に生かす。

高齢者施設のスタッフと居住者という2種類の利用者に注目して、どうしたらもっとコミュニケーションを活性化できるのか、調査が始まりました。

さまざまな理念を持って設計される建築物。それらは本当に利用者の生活の質を向上させることができているのでしょうか? 

例えば、高齢者施設では利用者には入居するお年寄りの方と、お年寄りを見守るスタッフの方がいます。ここで居住者の居心地を最優先し、プライバシーが確保された空間を目指すのか、あるいはスタッフの働きやすさを優先し見守りやすい空間を目指すのか、このバランスの判断が非常に難しく建築家たちは頭を悩ませてきました。

そこで三浦研究室ではIoT(※1)機器を用いて、どちらの利用者にとっても使いやすい空間を実現することを目指し、各地で実証実験を行っています。

※1: Internet Of Things 物のインターネット

今回は高齢者施設のスタッフと入居者の活動を把握するプロジェクトを2つ紹介します。

テクノロジーを導入したら利用者の動きや関係性がどう変わるの?

大垣市で高齢者施設を運営されている社会福祉法人新生会さんではスタッフ同士のやり取りにインカムを導入しました。三浦研究室ではインカムの導入前後でスタッフの方々の活動がどのように変化するのかを比較検証しています。

いままではスタッフ同士が少人数のチームを組み、ある程度狭い範囲で見守りを行ってきました。しかし物理的な距離から他の階にいるチームとの連携がうまく取れなかったり、チーム内でも細かいところまで情報共有ができていなかったりしました。そこで、インカムを用いることで、人の動きを無駄なく効率的にし、物理的な距離を超えた人の動きが可能になるのではないかということが期待されているのです。これを実証することで、現在の見守り体制から逆算された設計手法にも変化を起こしていこうというプロジェクトです。

建築物を作っておしまいではなく、そこにテクノロジーを応用することで使用する人の環境や関係性をどのように向上させることができるかを調査から明らかにしようとすることが大切なのです。

高齢者施設入居者の活同僚を検証するために使用する歩数計

自室でどのように過ごしているのかを検証する

京都市で高齢者施設を運営されている社会福祉法人同和園さんで、国立長寿医療研究センターで生活機能賦活研究部部長を勤められ、現在では同和園の顧問をされている医学博士の大川弥生先生にご同席いただき打ち合わせを行いました。

医学博士の大川先生は、生活不活発病(※2)の存在を広く認知させることで、高齢者の方にも楽しく社会参加を増やしてもらい、日常の生活動作を増加させ、心身機能を向上させることを目的とした活動にとりくんでいます。

※2:日常の活動量減少により身体機能が低下する病気。大川先生が命名。

三浦研究室ではその意図に賛同し、社会参加を建築的に実現することを目標にプロジェクトがスタートしました。手始めに、居住者の方が現在自室でどのように過ごしているのか検証する方法を模索しています。

同和園さんでは現在AIViewという最新の見守り機器を導入しようとされています。AIViewは赤外線レーザーにより居住者の方の活動を点群としてデータ化しさらに人工知能を用いて処理することで居住者の方の体勢を検知できるシステムを備えています。

一方でこの機器は赤外線を用いているため、太陽光の波長と干渉してしまい日中に用いることができません。現在の用途は夜間の見守りに特化しています。このように現在の見守り機器では日中自然な状態で居住者の方がどのようにすごしているかを判別する手段がないため、新しく検証する方法を調査しているところです。

AI Viewのプライバシーに配慮した画像データ

この記事の研究室

三浦研究室

人間の行動や心理,関係性を解析し、次世代の建築デザインにつなげる。