都市部の空き家は、所有者の複雑な事情が活用を妨げている
全国的な課題となっている空き家問題。前田昌弘講師が空き家活用支援に取り組んでいる京都市下京区の空き家率は、全国平均の13.5%を上回る15.1%です。下京区は、京都市内でも特に交通の便がよい区です。容易に借り手が付く好立地にもかかわらず多くの空き家が存在するのはなぜでしょうか。背景には資金や人間関係などに起因する、所有者の複雑な事情があるのです。
前田講師は建築士や地域のまちづくり関係者とともに、京都市中心部の人口4,200人ほどのエリア「有隣元学区」で活動しています。空き家の実態調査や所有者との個別相談などを行い、そのうち3件の空き家が実際に活用に至ったそうです。特徴は、建物を改修するというハード面での支援のみならず、空き家活用を妨げている所有者の課題を整理し、アドバイスを行うというソフト面からの支援も行っていることです。
4通りの活用案を提案した「路地奥の町家」
「路地奥の町家」は袋路内の連棟長屋の1件を改修した貸し家です。所有者は荒れ果てた空き家を譲り受け、対応に困っていました。そこで前田講師たちは、どの部分を改修するのか、工事にいくらかかり、活用したら賃料がいくら入るのか、助成制度は何が活用できるのかなどを整理し、4通りの活用案を提案しました。お金、安全性といった所有者の不安を取り除き、活用までの道筋やビジョンを示し、さらに活用方針の選択は所有者の方の意志に委ねたことで、所有者の方は安心して活用に踏み切ることができたそうです。
所有者と共に活用法を考えた「回り路地の町家」
「回り路地の町家」は路地沿いに並ぶ町家です。このうち9軒が長らく空き家となっていました。まとまった空き家を改修するには、資金やさまざまな知恵が必要です。そこで前田講師たちは建築や不動産、金融の専門家、行政の関係者などを交え、所有者と勉強会を繰り返しました。町家改修の方法や助成制度などのさまざまな知識を共有し、空き家の将来像を所有者と近い目線でじっくりと考えていった結果、9軒中5軒が貸し家として再生されました。
「所有者の多くは、資金や知識、経験の不足、家族、親族、近隣との関係などそれぞれ複雑な事情があって、活用にも処分にも踏み切れないでいる。このような状態を解きほぐすことは容易ではありません」と前田講師はいいます。
空き家活用支援は、慎重で継続的なアプローチと、時にはお金や人間関係などにも介入する深いコミュニケーションを要する取り組みです。前田講師は研究者の立場から、なぜこのような現実的な支援を行っているのでしょうか。
「空き家活用を通して町家や路地といった資源に着目した地域居住のモデルを示すことができればと考えています。京都市には地域と連携した空き家活用支援の優れた仕組みがありますが、仕組みがうまく機能するためには、所有者の心理的・行動的なハードルの理解が不可欠です。現在はこれまでの成果をもとにした所有者向けの情報発信(冊子の作成・配布等)を行っています」
空き家所有者が抱える不安を解消するノウハウは、あまり共有されていません。空き家の多くは、所有者が活用に踏み切るまでがネックとなり、放置されています。空き家活用支援の取り組みがさらに蓄積され、ノウハウが広まると、活用がぐっと進み、居住環境を未来に継承できるのかもしれません。