受賞ラッシュ! ベンチを街に置く活動って何がすごいの?

ベンチを置くプロジェクトに取り組む吉田哲先生にインタビュー

取材:2022年3月16日

―――ベンチを街中に置くという活動のきっかけは何ですか?

うちの父は足が悪く、例えば私の娘のバレエの発表会に行くのに長岡天神駅からホールまで一息に歩けなくなったんです。僕らは歩いて10分ぐらいで行ける距離だけれど。
お年寄りが座るところもなく道の上に立ったまま休んでいるというのは15年程前から見るようになっていました。ちょっと一息ついて2、3分ほどしたらまた歩き始めるんです。座れる場所は公園の中とかにはあるけど、歩く道がてらにはないなあと思っていました。

吉田先生(撮影:野上乃愛)
―――伏見区深草でベンチを置く活動が始まった経緯を教えてください。

僕が住んでいる西京区で2012年に区の主催するまちづくりの会が始まって、回覧板で見かけたのをきっかけに行ってみたんですよ。そこに伏見でまちづくりをする人に来てもらったことがあって、高齢者の居場所づくりができたらいいなという話をしました。僕は小学校を対象にした居場所づくりの研究も進めようとしていたので、高齢者の居場所づくりをやっている人たちにこっちにも来てくれへんか?って言われました。それが2015年でした。

―――プロジェクトで苦労したことは何ですか?

2015年から18年になるまで、ベンチはひとつもできませんでした。最初は藤森駅の近くにある疏水沿いにベンチを置こうとして伏見区深草支所のまちづくりの会議で提案したんです。そこの支援もあったから割とすんなり川沿いにベンチを設置できると最初は思っていました。でも川沿いの道や橋はそれぞれ管理しているところが違っていて、管理事務所にお願いに行ってもことごとく断られました。「道路に勝手なものは置けません」とか「いつまで置くんですか?」って。結局3年間くらいベンチを置けそうな場所の草刈りをやっていたんです。

―――その3年間を今振り返るとどうですか?

草刈りをしていたらちょっとずつ人が増えて、終わったら飲み会しようかって話になる。その3年間でいろんな人たちと知り合えました。
話がそれるけど、そこに来てる高齢者の中にはよそから来ている人も結構いたんです。若い人がまちづくりのために移住するというのは聞いたことがあるけど、退職した高齢者が自分の住んでいないところのまちづくりに参加しているのは面白い現象だと思って研究しました(「高齢者による居住地小学校区外でのまちづくり活動」https://doi.org/10.3130/aija.85.877)。プロジェクトが進まない間は研究を進めました。

―――その後プロジェクトはどうなったんでしょうか?

2017年になって、深草商店街の酒屋の三林さん達が深草の竹を活用するプロジェクトを始めたと聞いたんです。区から補助金をもらって、竹とんぼを作って一斉に飛ばすギネス記録を出したっていうんですよ。翌年になって竹で作ったベンチを作りたいという話が出ました。そしたら80代後半くらいのおばあちゃんが、車を手放して家の駐車場が空いているから、ベンチを置いて近所の人たちが座ってくれたらいいよとすぐに話が進みました。小学校の敷地内にある地域の人も使える図書館のそばにも、館長さんが置いていいよと言ってくれて、初めて2つベンチを置けたんです。

―――急に進みましたね。

この2つができたから、ベンチが街にあるといいねっていうことが形として見えました。それから高齢者のサロンとか生活支援の会とかいろんな場所で宣伝をして、竹を使ったベンチが2018年のうちに6脚できました。
1日で1脚作るベンチの製作会をやったら、参加した人が「うちの家の前に置いていいですよ」と言ってくれる。久保さんもその1人です。置く場所が決まらないときもたまにあるけど、それは傷んだベンチと交換するためにストックしておく。今では40脚以上置けました。

僕はすべての製作現場に立ち会っているわけではないんです。地域の人たちがすごくて。ベンチに座っていく人を見かけるようになり、自分たちのやったことが地域のためになっていると目にするようになってからプロジェクトが加速しました。

でも地域の人達はすごいことをやっているという自覚があんまりないらしいんです。いいことをやっているとは思っているんだけど、新しいとまでは思わないらしいんですよ。公園とか商店街じゃなくて、住宅街の私有地にベンチを置くというのは実は少なくともここ40~50年はないんです。新聞に載ったり講演会に呼んでもらったりして、ようやく本当にすごいことをやっているんだって思ってくれるようになりました。

―――この度プロジェクトが4つも賞を受けました。感想をお願いします。

これまでは結果が出ていなかったから今年度にならないとそもそも応募できなかったんです。2020年の京都景観賞にようやく出したのですがコロナ禍で第2次審査が延期になって。やっぱり「ベンチが40脚あります」と言うとインパクトがありましたね。派手なまちづくりじゃなかったので、いくつか出せる賞に応募しておいて1個ぐらい獲れたらいいなという話をしていました。本当に評価してもらえるかわかりませんでしたが、4つも賞をいただきました。こんなにすごいことをやっていたのかと地元の人が喜んだのが何よりよかったですね。

インタビューの様子(撮影:野上乃愛)

とまり木休憩所・おでかけベンチ協働プロジェクトの受賞まとめ

「国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰」
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000324.html
京都市の「令和2年度京都景観賞景観づくり活動部門」市長賞
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000281629.html
日本都市計画学会関西支部の「2021年度第24回関西まちづくり賞」奨励賞
http://www.cpij-kansai.jp/contents/committee/detail.cgi?id=319
http://www.cpij-kansai.jp/cmt_machisyo/top/linkfiles/ichiran.htm
「伏見区誕生90周年記念表彰」
https://www.city.kyoto.lg.jp/fushimi/page/0000294052.html

自分の家の前にベンチを置いている久保さん、ベンチを置く活動を続ける吉田先生、そしてベンチの利用者にもお話を伺い、とまり木休憩所・おでかけベンチ協働プロジェクトを多面的にお伝えしました。商業ベースでなく地元発の、歩いて暮らせるまちづくりに関心を持ってもらえると嬉しいです。

※吉田哲先生は2022年4月より大阪工業大学へと異動されました。吉田研究室では1年間お世話になりました。

登場人物

吉田 哲 | 准教授

1968年大阪市生。豊能町から京都市在住。40で自転車乗り。今年はANYROADで淀川くだりとビワイチ(↑まだ元気@奥琵琶湖)。ここ数年は伏見各所で、高齢者のおでかけと日常生活支援の“目に見える”ネットワーク・インフラづくりをめざして、学生とデザインしたベンチを地域の人とつくっては置いていくという活動を地味に続けてます。まずはビールで至福。たまに学生と激しい曲。野球はしなくなって20年。ときどき泳いで、走る(km7分、、、)。

この記事の研究室

吉田研究室

高齢期の地域継続居住を支援する研究・計画・デザイン。