京都大学防災研究所の松島研究室では地震動の予測に関する研究をしています。地震の予測と言っても地震がいつどこで起きるのか予知できるわけではなく、震源となる活断層を設定して地震が起こったときにどの場所がどのくらい揺れるのかを算出するものです。地震の予測には必要な情報がいくつかあるのですが、その一つに対象とする場所の地下の構造があります。今回は地下の地盤構造を調べるために2021年10月に京都市内で行った観測の様子を紹介します。
何を観測するの?
地下の構造がどのようになっているかを調べる方法はいくつかありますが、今回は「常時微動」を測ることで地下の構造を調べました。常時微動とは地盤のかすかな揺れのことで、自動車が走ったり工事による振動、火山活動などによって普段から起こっています。
下のイラストのように、地下は地層がいくつも重なった構造をしています。イラストでは簡単に3種類の地層盤しか描かれていませんが、実際にはさらにいくつもの層に分かれています。図中の矢印は地震波の伝わり方を表しており、地表面を伝わる常時微動とは違いますが強い関連があるため、常時微動を観測することで地下構造の特性が調べられるのです。
下の写真の機械が今回の観測で使った観測機器です。正式名称はSMAR-6A3Pと呼ばれる可搬型の加速度計です。松島研ではSMAR(スマー)と呼んでいます。この高感度の加速度計を観測地点に設置することで常時微動を記録してくれます。
SMARの設置にはいくつかの手順があってこの順番を間違えると微動の記録が正確にされなかったり、データが消えてしまったりします。また、SMARは非常に高感度なので車の走行による振動どころか人間が近くを歩いた時の揺れすらも拾ってしまいます。今回の観測では設置場所もなるべくこういったノイズとなる振動の少ない静かな場所を選ばなければいけません。なお、設置場所を決めるのは難しいので、事前にあった打ち合わせの際に先輩から詳しい設置場所の指示を受けました。私たち観測に参加した4回生は観測が初めてだったので、あらかじめ宇治キャンパスにてSMARの練習会を行って初めての観測に備えました。ただ、当日は一人で観測を行わなければいけないため、一度の練習会くらいで不安が消えるわけではありませんでした。先輩の修士論文のための観測なので失敗は許されず、緊張のまま観測を迎えることになります。
10/11 京都市内で常時微動観測を実施
さて、観測当日を迎えました。朝8時40分に岡崎道のローソンに集合しました。そこでSMARなど観測に必要な道具を受け取ります。そこから、みな徒歩で最初の観測地点に向かいました。計画では17の観測地点を学生4人が4地点ずつ、松島先生が1地点をそれぞれ手分けして、各地点でSMARを30分間設置して観測していくことになっています。私の最初の設置地点は岡崎公園の北東端でした。そこでの観測が終わったら、皆でもう一度合流して車で花園へと移動し、花園で3地点ずつ観測を行います。
ちなみに実際の観測の様子は皆さんの想像とはおそらく違います。私たちはSMARの設置が完了し、計測状態になったらあとは30分間離れて見守っているだけです。離れる距離は上の写真くらいといえば伝わるでしょうか。およそ5mくらいが目安です。その間にSMARが常時微動を計測してくれます。私たちは、不審物として通報されたりしないように通りがかりの人に説明したり、人が近づきすぎないように目を配ったり、車が近くを通ったときの時刻をメモしたりするくらいで他にすることはありません。SMARから離れて歩き回ることもできず正直その時間は暇でした。花園は行ったことのない土地だったこともあり観測中の30分間は特に寂しさを感じました。次の観測の時は何か時間を有効に使うものを用意しようと思いました。
手持ちぶさたな時間と同じくらい私が悩まされていたのはSMARの扱いの難しさです。先ほども言ったようにSMARは非常に細密な機械なので持ち運びのときも揺らしすぎないよう大事に扱わなければなりません。また、4か所の観測が終わってすべてのデータを記録するまでSMARの電源を決して切ってはいけなくて、電源を切ってしまうとそれまでのデータが消えてしまいます。(最大40分間分)さらにデータを持ち帰って後日解析するまで正確にデータが記録されているかも分かりません。このように不安や緊張でへとへとになった京都観測でしたが、下図のような観測結果を得ることができました。
次の記事では邑知潟平野での観測も紹介しているのであわせてご覧ください!