2023年9月14日(木)、「VERTICAL REVIEW 05」が開催されました。
「VERTICAL REVIEW(ヴァーティカルレビュー・VR)」は、京都大学建築学科、同大学院建築学専攻の設計演習で提出された作品の中から、各課題ごとに優秀作品を選抜して行う講評会です。学外の建築家や研究者をゲストクリティーク(講評者)としてお招きし、学生との対話を交えながら講評を頂きます。2021年から始まり第5回目を迎えたVR。今回は日本建築学会大会との同時開催とすることで、講評会当日の14日はもちろん、12日から15日までの展示期間中にも多くの方にご来場頂き、大盛況となりました。
これまでは学部生の作品を中心に展開していたVRですが、今回から新たに修士課程の作品が加わり、京大建築での学びをより一体的に見せる構成に進化しました。
今回のゲストクリティークは、魚谷繁礼氏、西澤徹夫氏、畑友洋氏、平野利樹氏、山田紗子氏でした。また、塚本由晴氏、赤松佳珠子氏、堀口徹氏、吉村靖孝氏も飛び入りで参加してくださいました。京都大学の常勤教員からは平田晃久先生、岩瀬諒子先生が講評に参加されました。
それでは、各作品を課題ごとに紹介します。
■1回生前期前半 HAND
学生自身が選んだ建築作品を題材とし、図面情報の集め方やドローイングの技法を習得しました。
猪阪 千映子『168 Upper Street』
大川 暖『Shanghai Poly Theater』
加納 環『Koshino House』
矢橋 葉名『矢橋邸』
■1回生前期後半 DIGITAL 重層する空間としての箱庭世界の構築
3Dスキャン、モデリング、レンダリングなどのデジタルテクノロジーを用い、ミクロ・マクロスケール双方向に展開する箱庭世界を表現しました。
織田 慎平『CATAN』
佐原 直弥『引き出しと箱庭世界』
伊東 祐貴『Post in Post』
田中 周良『人体管理制御室』
この課題は建築に対してかなりクリティカルな課題だと思うんですよね。建築におけるリアルなスケールとの関係、これが100分の1なのか、200分の1なのか、50分1なのかということが建築をつくっているようなところがあるのに対して、完全にスケールレスな入れ子のようなものを1回生の課題にしているじゃないですか。これがどういうことなのか、思うところはあるが、こうして見ていると割と、ナチュラルにすっと作ってしまっていて、(発表者は)理由を聞かれても上手く説明できていない感じがある。自然に作れてしまっていることが驚きでもあるが、こういうものを作っている彼らが、これからどういう課題に対して答えていくのか、身をもって知りたい。(中略)特殊な課題にチャレンジしてくれた人の、そのチャレンジをそのまま継続していけたらいいなと思いつつ、2回生の課題は比較的オーソドックスなスケールの話をすることになると思うので、この課題とのギャップはあるはずだが、それは建築を続けていく中で、そのギャップがそれなりに自然に解消していくと、新しい世代の建築が生まれていくのかもしれないという期待もしている。
――平田先生
スケールについての議論(YouTube 0:24:00)は、3回生前半課題 MUSEUM (YouTube1:29:00)へと展開しました。さらに、4回生スタジオ課題(YouTube2:47:00)でもスケールが議論にのぼりました。
■2回生前期前半 PAVILLION
空間を覆う物体によって、そこに何らかの情緒を帯びた空間を現出させることを目指し、用途を取り去った元初的な建築としての「パヴィリオン」を設計しました。
宮坂 杏奈『ひらひらに誘われて』
長竹 璃子『Walk in Woven Wood』
藤田 幹也『箱と道』
田盛 賀大『In the WALLs』
■2回生前期後半 HOUSE 生きている家
京都市内の3つの場所から自由に敷地を選び、それぞれの場所で人々とともに生きていく時間を想像しながら家について考えました。
岡本 龍馬『TREE HOUSE』
武田 麻由『動線をほぐす 空間をからめる』
廣瀬 慶太『空間の変化』
■3回生前期前半 MUSEUM inter-active : 第4世代の美術館
見ることや参加することやつくることが開かれ、それぞれが特権的でないような美術館を計画しました。
五十嵐 果保『水ノアヤ』
澤村 俊樹『断続的美術館』
林晃 太郎『闇・光・美』
南沢 想『生きのびるための美術館』
第4世代の美術館ということで、実は似たような内容のことを他大学でもやったが、明らかに京大の傾向として、最初からすごく言うことが観念的で正し気なことを言うけれど、手が動かないというところに戸惑った。どうしようかなと思って、ああ、動かないのかなと思ったんだけど、今日1年生からここまで見ていくと、決してそんなことはないということが分かって。だから3年生になってようやく概念をこねくり回すことが出来るようになってきたという最初のところで、そこと形をスタディするということがまだ結びついていないのかなということを、今日見ていて思った。ただ、第4世代の美術館ということで、いろいろなことを言ったが、皆さんの関心はどうもそういうことではなく、人それぞれストラグルしているところがあったので、どっちかっていうと途中で僕はそういうことはあまり言わずに、とにかくやりたいことが成立する方向へ、エスキスしていたような気がします。(中略:それぞれの作品の取り組み過程を紹介)最後、力業でもちゃんと持っていける力があることにすごく感心して、自分のやりたいことを実はすごく明確に持っている人たちなんだと分かった。
――西澤氏(YouTube 1:43:00)
■3回生前期後半 SCHOOL 未来の⾃由な学びの場−⼩学校を「発酵」させる
典型的な小学校を「発酵」*させることで、より自由な学びのための場所へと変容させる計画を行いました。
*発酵:従来の空間にあなを開けたり組替えたりしながら、より豊かな⼈とのインターフェースを持つ場に変化させることの喩え
安達 志織『ヘテロフォニーの奏でる舎』
村上 凌『(不)連続性』
赤路 朋哉『A Hole = New World』
小学校課題でキーワードとなったのが、批判性。塚本氏からは、単にこれまでと違うものを「批判」とすることは「今日はカレーだったから、明日はラーメンにしよう」という話と同じではないか、それでいいのか、という鋭い指摘がありました。
さらに議論はこれからの計画学のあり方へと発展します。(YouTube 2:14:00)
今の時代は計画学のダダイズムじゃないと思う。そもそも計画学をもう一度やり直すときだと思っている。じゃあ、どこから計画っていうものを考え直すのかっていうことをやらないといけない。(学生の作品は)やっぱり断片を繋いでいるという風にしか見えない。そういう意味では。
――塚本氏
破壊じゃなくて、再構築ということ?
――平田先生
そうそう、それをやらないと。じゃあ、内側から具体的にどういうことをやりましょうか、と。(中略)今まですごくぞんざいにされてきたところを学びとして構築していくには、どういうふるまいを想定し、どういう設えをし、そこにどういう学びを重ねていくかっていうことを例えば教育のプログラムとして。計画の問題だと思うんですよ。それは全然断片化したものを繋ぐっていう感じではないと思うんですよね。そういう計画をもう一回やり直す時代だと思うので、(学生の作品を示して)これはこれで元気がよくていいと思う一方で、こういうことなのか?っていうことをね。
――塚本氏
我々が設計していく上で、考えていかないといけないことですよね。
――平田先生
■4回生前期 STUDIO
4回生は、スタジオごとに異なる課題に取り組みました。
●田路スタジオ:覆いと囲いの構成原理
事例分析から導かれた構成方法を自身の設計に適用し、空間の複合体とアクティヴィティの複合体を重ね合わせ、多様な意味ある場所を内包する全体性を構想しました。
●平田スタジオ:ものの響き
さまざまな事象やモノが響き合い、その秩序が構築されるような建築を設計しました。
●神吉スタジオ:場所の力
場所に潜む力を読み、その力を顕在化させる建築と都市・地域空間を提案することで、新しいランドスケープにむかうことを目指しました。
平田スタジオ 乾 翔太『時速32kmのイエ』
平田スタジオ 上和田 静『じぶんのかけら』
神吉スタジオ 松尾 侑希乃『臆病者とのパレード』
田路スタジオ 里中 栄貴『castle scope』
個人の記憶から設計された平田スタジオの2作品を巡っては、「私」の先にある「普遍性」へと議論が展開しました。
手法がとてもパーソナルでウェットな手法ですよね。チャートにしたりしてドライさを装っているが、かなりウェットで、ともすれば私小説的なプロジェクトになっていると思うんです。それをどのようにより大きなディスカッション、普遍性につなげていくのかということが気になっていて。もちろんウェットな方向、パーソナルな方向で突き抜けていくと、神話に接続する形で極端なパーソナルが反転して普遍性につながっていくことはあると思うんですけれど、これらはどのように普遍性につながっていくのか。
平野氏(YouTube 2:42:00)
平野氏の問いかけに対し、設計手法が普遍的に活用できると答えた学生。
一方、平田先生は異なる見方を提示します。
僕はちょっと違う見方をしていて、一定以上複雑な状態を作れると、それはもしかしたら他の人がそこに住んでも、この家は変わらなくても、別の記憶と繋がれるかもしれない。さっきの住宅の課題(2回生)で、複雑な動線をやっていた人の話にも通じると思うんですけど、もしかしたら建築って、全部に対応することは出来ないから、そういう別の読み替え可能性みたいなものを持っていることが大事なんだけど、その読み替え可能性ってのは、一定以上の響きの重なり合いの中に発生する。複雑系がある一定以上に複雑になって発生するのと同じようなことがあるんじゃないかと僕は思って見ていますけど、(学生には)それぞれの考えがあるようですので。
平田先生(YouTube 4:32:29)
赤松氏からはこんな指摘も。
ふたりとも住宅っていうものをかなり自分の内側からの組み立てでやっていて、都市を集積させているものと、自分の中を外に向けて出していっているものということで、ベクトルは全然違う2つの作品が同じ「響き」という住宅でやって出てきているのが面白いと思って見ていました。たしかに、説明可能性みたいなことを建築は言われますけれども、説明できるからいいというものでもない。けど、説明できないけどいいのは一体何なのかということを追求するのも非常に難しいなと。でも、面白いなと思いました。
赤松氏(YouTube 2:48:30)
■修士設計実習 alternative OSAKA EXPO 2025
実際に行われた万博会場の「休憩所」「ステージ」「トイレ」等20施設に関する設計プロポーザルの要項に基づいて施設提案を行いました。
大竹 平『部材ゲノムと建築キマイラ』
酒井 良多『MOTHER EARTH』
谷口 颯一郎『影が重なる時』
■修士設計演習 アーバン・ヴィレッジ京都
東九条南東部エリアを対象に、⼤学を卒業した若者が働き、住むことができ、地域住⺠から市内、国内、国外からの来訪者も巻き込んだ魅⼒的なコミュニティの拠点を計画しました。
上松 真由、栢谷 樹、小森 幸、平岡 丈『ヴォイドから街を考える』
講評後の座談会では京大の設計教育から先生方ご自身が日々向き合われている課題まで、VRならではの熱いお話が。
今日塚本さんが来ていて学校の課題の時なんかもそうだったけど、そういうデコンストラクションというか、ある種のぶつけていくということだけじゃなくて、もう少し、再構築という時代なんだということをお話しされていたじゃない。どこから再構築していくのかというときに、もうちょっと微細なものをきちっと見たときに、例えばさっきの下足がどうとか、靴を脱ぐっていうような話も含めてどういうふうに学校っていうのを捉えていくかっていう、割とすごくベーシックなところから新しい成り立ちみたいなものをつくっていくというのがこれから必要なんじゃないかと。それはもう本当に、学校の課題というのを超えて、基本的には今の僕らが設計している建築の課題そのものなんですよね。だから今日見たいろいろな課題の中に、本当に今の、現代の、建築家が考えていることのエッセンスが入っていて、地続きにこの課題というものがあるという感じも受けていて、それは僕らも自分自身の問題として考えていきたいと思っている。
平田先生(YouTube 3:52:53)
是非YouTubeライブのアーカイブで、ご覧ください。
最後にゲストクリティークの先生方から個人賞が贈られました。
魚谷繁礼賞 乾 翔太『時速32kmのイエ』
西澤徹夫賞 猪阪 千映子『168 Upper Street』
畑友洋賞 上和田 静『じぶんのかけら』
平野利樹賞 南沢 想『生きのびるための美術館』
山田紗子賞 松尾 侑希乃『臆病者とのパレード』
赤松佳珠子賞 南沢 想『生きのびるための美術館』
堀口徹賞 乾 翔太『時速32kmのイエ』
吉村靖孝賞 上和田 静『じぶんのかけら』
以上、9月14日に行われたVERTICAL REVIEWのレポートでした。
(写真撮影:安田渓先生、千葉祐希、和田大輝)