2025年1月27日(月)、VERTICAL REVIEW 08 が開催されました。
京大建築の公式YouTubeに全体を通しての動画がありますので、ぜひご覧ください。
VERTICAL REVIEW は、京都大学工学部建築学科・工学研究科建築学専攻における設計作品の中から、各課題ごとに優秀なものを選抜し、学期末に全学年が合同で行う講評会です。ゲストとして学外の建築家の先生をお招きし、学生と教員が一緒になって議論を行います。

今回は、ゲストクリティークとして学外から以下の先生方にお越しいただきました。
一級建築士事務所河井事務所 河井敏明
藤本壮介建築設計事務所 藤本壮介
アルファヴィル一級建築士事務所 山本麻子
中山英之建築設計事務所 中山英之
MARU。architecture 高野洋平
あわせて、学内から岩瀬諒子先生、小見山陽介先生、杉中瑞季先生、安田渓先生がご参加されました。
VERTICAL REVIEWを企画・運営されている平田晃久先生は、今回は所用でご欠席となりました。

後期は1回生から3回生、修士課程の設計課題が集まりました。
卒業設計を行っている4回生はVERTICAL REVIEWとは別に卒業設計審査会が2月に行われます。
それでは各学年の設計課題についてご紹介しましょう。
1回生 第1課題 VISIT
建築という立体、しかも内部「空間」を内包する3次元の空間を他の人に伝えるためには、模型という3次元表現以外は2次元の手段を用いざるを得ません。建築図面は工業製図のような「図面」でありながら、同時に「空間表現としての2次元媒体(メディア)」でもあります。また、「スケッチ」や「写真」も同様の表現手段になりえます。本課題では、推奨建築のうち1作品以上を実際に訪問したうえで、様々な媒体でそれぞれの注目した点を表現する訓練を行いました。
一色悠太郎 「鈴木大拙館」
落合智紀 「海の博物館」
寺井健太郎 「感覚の可視化」
堀江拓史 「異形の塊」
1回生 第2課題 NOTATION
「記法(Notation)」は対象の特定の特徴や属性を強調し、読み手に伝える方法です。そこでは、一部の属性や原理が強調して認識されますが、表現されない要素が存在する点にも留意する必要があります。本課題では、表現するときに排除されてしまうものを救済し語るために、特定の敷地から読み取った情報や何か意味を触発するものを顕在化させる「記法 Notation」を考案し、模型と図面で表現しました。
一色悠太郎 「動線とは」
岡村知典 「3.5条」
篠原佑里 「凸凹が空間を広げる」
西岡祐俐 「雨」
日浦咲織 「飛雲閣」
1回生 第3課題 ASSOCIATION
言葉から自分の想像力を頼りに空間を立ち上げる時、その空間は各々の頭にとって違う空間たりえるでしょう。その時、何を頼りに設計の手がかりとするでしょうか。本課題では、お気に入りの小説、詩、散文などから200~800字程度の文章を選び、その空間のイメージをコアにしてそこから連想して挿絵を描くように模型と図面で表現すること――本質を見極め、自身の感性を動員し、言葉の中に立ち上がる空間の思考を行いました。
寺井健太郎 「DECEIVE YOURSELF」
辻野愛菜 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
篠原佑里 「三つの窓」
金山ルーク 「好くが内」
落合智紀 「時間等曲的漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)」
2回生 COMMUNITY SPACE コミュニティ施設/Urban Common Space
本課題では、都市を営む様々な人々が、それぞれの意図で共存して使うことのできる場、比較的小規模なUrban Common Spaceを設計しました。対象地域は、過去一度も市街地として途絶しなかった、京都市都心部の室町通り・新町通りの間と沿道です。都市にどのようなContextを見て取るか、さらにそのContextで異なる人の居合わせる場Common Spaceをどのように空間化するのか、この2つの関係を扱うことが目指されました。
重平晃佑 「まちかどキューブ 〜「等しい」のなかでつながる街の要素たち〜」
木村祐実 「縁と間」
杉山京佳 「まちまちガーデン」
宮地亮汰 「成熟の顛末」
織田慎平 「住む、呑む、働く。」
2回生 LEARNING 3つの本との出会い方のある図書館
インターネットに代表される新しいメディアが普及している今、これからの図書館は、先人たちの探究と私たちがどのように出会い、享受するのか、その術の多様性を探り、可能性を試すための場である、と言えるのではないでしょうか。本課題では、「3つの本との出会い方のある図書館」について考えました。1つ目は個人が本と一対一静かに向き合う場、2つ目は屋外空間、3つ目は自分自身で考えて設定しました。
山田侑吾 「交わる視線、重なる距離」
佐原直弥 「思い巡らす、巡り合う」
後藤来誓 「「本の山、知恵の谷」図書館」
安田梓紗 「流れて 溜まって」
矢橋葉名 「埒外の羊たち」
大川暖 「KATAMUKI MULTI LAYER」
池端茉央 「空間に滲み出すパレット」
3回生 HOUSING COMPLEX 集まって住むことの豊かさ
社会に占める単身者世帯数が最も多く、地方と都市を行き来する暮らし方も見られる現在、都市に集まって住むことには、より積極的な意味が求められています。本課題では、これまでの核家族をメインターゲットとした住まいではなく、こどもの立場から、高齢者の立場から、働く女性の立場から、シェア居住の立場からなど、視点を多様化して「集まって住むことの豊かさ」について考察、提案しました。
佐合慶哉 「境界はつなぐ」
西優洋 「サードプレイス・ハイウェイ」
白井李佳 「段段とあな」
藤本旭 「6」
3回生 CULTURAL COMPLEX 都市と建築とランドスケープが溶け合う場——茶屋町メディアコンプレックス
現代では、人々の文化的志向性が多様化し、メディアの発達によって人々のつながりが実空間上の場所を介さないものになっています。そのような時代だからこそ、異なる傾向を持った人同士が偶発的に出会い、様々な形で同じ時を過ごせる居場所をつくることの重要性が高まっているのではないでしょうか。本課題は、大坂の茶屋町の只中にあって、周囲と一体になりながら立体的に展開する文化交流施設、都市とランドスケープが溶け合う場としての建築を設計しました。
金川拓樹 「都市の群像、都市の庭」
長竹璃子 「その日、そのとき、その場所で」
武田麻由 「文化を重ねるレイヤード」
藤田幹也 「流れ留まる3.0kmの散歩道」
修士課程設計課題 Interface | Body – Material – Environment
オーバーツーリズムによる画一的な観光は、その場所の複雑さを無視して平坦な認識を人々にもたらします。そして、その環境やそこにいる他者との個人的で予期できない関係を築くことを難しくしています。本課題では、マス・ツーリズムの目的地において、一人一人に応じた特別な体験を可能にし、そこにいる他者との関係を育み、その場所を体験する思いがけない方法を生み出すような、建築的/空間的装置を提案しました。
Haakon Agerup 「Link」
Lukas Kauz 「pop.up.kyoto」
Vladimir Champsaur 「Noren Gate」
Daisy Ming To Tai 「Minamo no Washitsu」
Astrid Ma Wing Yee 「Ohanami Journey」
Kristine Kleivi 「Satoyama」
Camille Aubry 「Cocoon」
Simon Hegdahl 「Encounter Arashiyama」
Tor Kvisgaard 「The Pod Kyoto」
Morten Nordaas 「The Path of the Eel」
Thibault Dubern 「Togetsukyo Bridge」
座談会
講評会後の座談会では先生が集まって全体の総評を行いました。ここでは、ゲストクリティークの先生方のコメントを抜萃してご紹介したいと思います。
山本麻子先生は、1年生から建築の勉強がスタートして、そこから2回生になって実際の設計を行うようになって、3回生になって難しい課題がきてという流れのなかで、京大の場合は求められる課題が明確だと感じたそうです。それに答えて学生もステップアップしており、見ていて楽しいとのお言葉をいただきました。
河井敏明先生は、竹山聖先生が設計演習の課題の流れをつくったときから見ているけれど、今では平田晃久先生のコンセプチュアルな課題設定などもあって、良い課題ばかりだそうで、それに対する学生の皆さんも素晴らしいとの総評をいただきました。建築言語は不自由な言語だけれど、皆さんきちんとつかって認識や心象風景をつくれている作品が多く、ここまでできると楽しいはずといいます。ここからいろんなことをこの建築言語をつかって表現してくださいとのことでした。
中山英之先生は、学生やゲストの皆さんとお話できて面白かったそうです。昔は先生方が怖すぎる雰囲気のある大学もある一方、先生と学生がタメ語で話す大学もあったといいます。それに対して、京大は独特の突破力があるそうで、世界にも通用しそうな雰囲気が漂っているとのことです。全体として持っている突破力を強く信じていくとよいのではとのコメントをされました。
藤本壮介先生は、素晴らしい作品ばかりであったとした上で、特に1年生にみずみずしい作品が多かったといいます。もしかすると段々と建築の知恵がついてきてなんとなく似てくるフェーズがあるかもしれないけれど、そこからもう1回浮上してさらにユニークなものをつくっていくフェーズもあるかもしれないといいます。学生時代は波があって、時には全部うまくいかない時もあるけれど、その先には自分が何かをつくれている感じというのが必ずあるそうです。最後は建築に対する情熱のようなものが皆さんを駆り立てていくはずで、それを培っていってほしいとお話されました。
高野洋平先生は、京大の人たちの作品は絶妙なポジションから出てくるオリジナリティがあるといいます。関東だと大学が林立してポテンシャルが混ざりあっていく感じがあるけれど、京都という独特のポジションのなかで、絶妙な個が消えないカルチャーがあると思ったそうです。VERTICAL REVIEWも一つの運動のようで、学年を縦断した関係が脈々と受け継がれており、他の大学とは違う京大の魅力なのではとコメントをされました。
以上を踏まえて、学内から岩瀬諒子先生がコメントされました。
岩瀬先生によると、京大の課題は大変難しく、かなり無理をした課題設定になっているけれど、学生もそれを乗り越えてついてきてくれているという感じがしたといいます。建築は苦しいことが多いけれど、わからないことに出会ったりすると急に楽しくなる瞬間があるそうです。4年間VERTICALREVIEWを続けてみて、総体としての力が感じられてすごくよかったと総括されました。

最後にゲストクリティークの先生方から個人賞が贈られました。
河井敏明賞 岡村知典 (1回生) 「3.5条」
藤本壮介賞 後藤来誓 (2回生) 「「本の山、知恵の谷」図書館」
山本麻子賞 木村祐実 (2回生) 「縁と間」
中山英之賞 武田麻由 (3回生) 「文化を重ねるレイヤード」
高野洋平賞 一色悠太郎 (1回生) 「鈴木大拙館」・「動線とは」
以上、VERTICAL REVIEW 08のレポートでした。
(文章:樋田蓮、写真:中村凌汰・林知樹)