集団での設計における建築家の立ち位置とは?-『北大路ハウス』の設計について-

建築は建築家だけがつくるものなのか?ワークショップを通した集団での設計において個としての建築家の立ち位置は薄まってしまうのか?
平田研究室が中心となり、関西の建築学生を巻き込んで設計した『北大路ハウス』の設計について紹介します!

北大路ハウスとは?

-京都の建築学生の結び目をつくる-

京都には、建築を学べる数多くの大学や専門学校がありながら、これまでに学校の枠を超えた交流の場はほとんどありませんでした。

『北大路ハウス』は、新建築社の協力の下、京都大学平田研究室を中心として建築を学ぶ学生自らが、京都における建築学生の結び目を作ることを目指しています。

 

 

-作り手が住み手、使い手となる-

京都市北区の戸建住宅を、6人の建築学生が住めるシェアハウスへと改修しました。共有部分を広くとっており、多目的な共有スペース/ライブラリーが生活の場と一体となっています。

このプロジェクトでは平田研究室だけでなく、関西の多くの建築学生が設計主体の中に入り込んでいます。”ふろしき案”という設計の大枠や個室の形・配置、撤去・改修する箇所などの設計における重要な決定をワークショップという集団の場で行ってきました。その背後には、こういう建築をつくりたいという作り手としての立場に留まることなく、自分が住み手だったらこう住みたい、使い手だったらこう運営したい、というように、作り手-住み手-使い手という立場を横断した活発な議論が展開されてきました。

  

生きられた家

写真 ©︎新建築社写真部

様々な人たちが設計プロセスの中に入り込んでくれて『北大路ハウス』という場所がつくられました。しかし、これで完成ではありません。建築がつくられて、ここを住みこなす行為に住まい手が積極的に関わり、そして建築学生の結び目としてこの場所を使われていく。

『北大路ハウス』では、そんな「生きられた家」を目指して様々な活動が起こっています。住人も住み始め、今ある空間を生かして自由に住みこなしたり、レクチャーイベントや他大学との交流会などいろんな場面で使われています。

 

声がかたちになる

この記事を書いている僕は、実は『北大路ハウス』が出来上がってから平田研究室に入っています。『北大路ハウス』の設計プロセスは非常に実験的でおもしろいつくられ方をしていますが、僕はあまり大きく関わってはいませんでした。

(北大路ハウスの設計プロセスはこちら)

しかし、『北大路ハウス』が出来上がってから、使う立場として見てみても、この建築が非常に面白い場所だというのがわかります。
一般的な住宅では、「この部屋は〇〇する場所」と決まったようなつくられ方をしていますが、この建築では、一つの場所を考えるにも多くの議論があってつくられたのが伝わってきます。「この場所は本読むのにピッタリだね!」「こたつ敷いて映画見ても楽しそう!」なんていう会話が空間から聞こえてくる気がします。

こたつが置かれる共用部

 

個としての建築家の立ち位置

僕には以前にもこんな声がかたちになった空間経験がありました。ちょっとだけ昔話させてください。

 

小学生のときですが、地元の金沢にできたSANAAの『21世紀美術館』に行って、それまで体感してきた空間というものが覆されるような感覚を経験しました。今思えばこのことが建築学科を志したきっかけに大きく影響を与えているのでしょう。
このときの感動が原動力となって、こんな有名建築家になって僕もこんな空間体験を、建築を設計してみたい!という思いで頑張ってきました。しかし、勉強していくと、「建築をつくること」の価値観が揺らいでいる時代だということもわかってきました。

そんな中、研究室の教授である平田晃久先生の『太田市美術館・図書館』(以下、太田)に足を運びました。
僕はそこで再び小学生のときに感じたものと似た感覚を経験しました。『太田』は市民ワークショップを経て設計プロセスにおける重要なことが決定されています。つまり、そこには市民の多くの声が建築の中に反映されているのです。僕はその多数の声が建築になって、『太田』が「生きられている」ことに感動しました。

 

この建築と出会い、新しい「建築をつくること」のあり方のひとつを見た気がしました。個人の建築家がつくる圧倒的な魅力を持った空間ばかりに憧れてきましたが、市民という他者の声が入ることで、一人の建築家だけではつくれないような「生き生きとした」空間が現れることを実際に体験しました。

 

では、ワークショップという集団での設計の場において、個としての建築家の立ち位置は薄まっていくのがいいのかというと、そうではありません。一ワークショップ参加者として議論の中に入り込み、その議論を活発に動かし、常に考え続けることで、ひとりではつくり得ない多様性に満ちた建築をつくり出す場をデザインします。つまり、他者を巻き込みながら、自らの立ち位置を横断することで「建築をつくること」を拡張させているのです。

僕たち平田研究室も作り手である一建築家として、使い手である一建築学生として、住まい手である一住人として、ワークショップの中で「『北大路ハウス』をつくること」を拡張する実験的な設計に挑戦してきました。

 

なお『北大路ハウス』は現在も建築学生の結び目であるライブラリーとして開館中ですのでぜひ遊びに来てくださいね!
詳しくは平田研究室までご連絡ください! → hirata.a.lab@gmail.com

写真 ©︎新建築社写真部

この記事の研究室

平田研究室

建築設計の実践を通してこれからの設計論理を探求する