当時の技術では建てられなかった?? 歴史的な構想建築物の実現性を検証!

建築の歴史の教科書を開けば載っている「第三インターナショナル記念塔」。
この建築は1919年に構想された高さが400mもある建物である。
しかし当時の技術では建設は困難となり未完で終わってしまった。
なぜ建てられなかったのか、どうすれば建てられるのかを研究する。

第三インターナショナル記念塔とは

第三インターナショナル記念塔

ロシア構成主義という芸術運動のなか、1919年に芸術家ウラジミール・タトリンによってこの建築は考案されました。この建築は二重螺旋と巨大な斜材が組み合わさった外殻フレームと、3つのブロックに分かれている内部コアによって構成された、高さが400mもある塔状の建物です。加えて内部のコアは、それぞれが常時回転するという設計でした。このように現代の私たちでも驚く構想を100年前の当時に発表したのだから、そのインパクトはとても大きいものでした。現にこの建築は、その後の建築歴史に登場する「動く」「展開する」というような建築の考案、設計において先駆け的な存在となり、たびたび議論の的となったのです。

第三インターナショナル記念塔 立面図

解析モデルをつくる

建築構造の分野に進むと「解析」という言葉が頻繁に登場します。ここでの解析とは、「建築物や建築部材に様々な力が加えられた時に、その内部にはどのような力が働いていて、どのような変形が生じているのか」ということを、コンピュータを用いて数値シミュレーションを行うことです。地震に対して行うシミュレーションも「振動解析」という解析です。近年の解析ソフトウェアは多種多様で、とても進歩しています。

この研究でも解析ソフトを用いています。そのために、まず3Dの解析用の建築モデルを作る必要があります。研究のスタートはそのモデルづくりから始まりました。実は第三インターナショナル記念塔の設計図は、上の画像の立面図二枚だけしか存在しません。そのため、詳しく図を比較すると矛盾している箇所が多々出てきます(笑)

これを設計と呼んでいいものなのか、と思いますが我々の分野における「設計」とは、いわば「デザイン」の言い換えで、実際に建てていないものも含まれるのです。

そうした立面図から得られる情報をもとに、幾何学的な数式、エクセルや簡単なプログラミングを駆使して、モデルを構成する三次元情報を与えた点をどんどん配置します。そして、その点をつなぎ合わせることで建物の骨格を作っていくのです。

解析モデル

実現していない建築を、いかに構造解析するか

そうして出来上がった解析モデルを用いて、この建物の強度を調べていきます。まずは自重に耐えることができるのか? というところから始めます。結果は、すぐに上の方の重さを支えきれず崩壊してしまいました。このモデルが原案を忠実に再現しているわけでもないので、この段階で設計を無理なものだと決め付けることはできません。次に、変形が集中した箇所を中心に、部材断面の大きさを変化させて比較してみました。そうやって比較を繰り返していくうちに、断面の変更だけでは対処できないことがわかってきます。そうするとモデル案の見直しが必要になります。次に考えることは、支持する部材を増やす、又は向き、場所を変えることなどが挙げられます。

しかしここで重要となってくるのが、当初の設計案のイメージを壊さないようにすることです。断面の調整を行う時にも言えますが、大きな部材をたくさん組み込むという手段は、コスト面やデザイン面からいってもナンセンスです。デザイナーの意向を汲み取って安全な建物を設計するというのが、構造設計の役割であり、腕の見せ所になってきます。

そうした点に注意しつつ、過去の模型作成事例やイメージ図を参考に補強部材を増やしました。結果として、自重と45度の方向ごとの横から押す力に対して十分に強度を保つモデルができました。

日本では当たり前「地震対策」も検証

先ほど紹介したモデルは、あくまで一定の力が作用したという「静的荷重」に対する安全性を検証しただけです。地震波によって作用する力は「動的荷重」と呼ばれ、この力が作用した時の安全性も求められます。特に日本のような地震国に建てる建築物には必須となっている検証部分です。地震による作用というのは、急激な力や繰り返される力などもありますが、地震の揺れと建物の揺れ方が同調してしまう共振現象があります。特に今回のような巨大な建築では、ゆっくりとした揺れによって変形が増幅される危険性を考慮しなくてはいけません。そのために作成したモデルを用いて、揺らしたときの特性や応答を検証し、その結果から対策を考えていきます。第三インターナショナル記念塔は、外側の螺旋状フレームと内部のコアに分かれています。そしてそれぞれは材質や大きさが異なるので揺らした時別々の挙動を示します。今回はその差異を利用した地震応答の低減方法を用いました。この手法は五重塔にも利用されているもので、スカイツリーにも応用されています。しかしこのように複雑な形状をもつ建築物に応用させることができ、その効果が示せるのかという部分が課題となっています。

まだまだ先は長いですが、構造からデザインまで色々な方向性から建物を検証できる面白い研究です。実際に建築物を想定して考えていける点も楽しいところです。

この記事の研究室

金子研究室

都市環境を支える構造材料をつくる。ミクロからマクロへ、全ては設計のために。