「都市の中の自然/自然の中の都市 ~la nature dans la ville/la ville dans la nature~」
2018年10月22日から26日にかけての5日間、フランス国立ラ・ヴィレット建築大学校と京都大学の共同で、パリを舞台にワークショップが行われました。京都大学からは、建築系の田路研究室と土木系の川﨑研究室が参加しました。田路貴浩准教授が設定したテーマ「都市のなかの自然/自然のなかの都市」のもと、2018年5月頃から行ってきた事前リサーチ、そして5日間で現地調査、ディスカッション、プレゼンテーションまで行うという濃密なワークショップとなりました。
本ワークショップは、京都での事前調査、パリでの実測調査や観測などを経て、都市の中の自然に対する理解を深めるとともに、京都とパリの自然に対する考え方の相違や共通点などを探ってゆくものでした。
導入【ワークショップ1日目】
京都大学の田路研究室と川﨑研究室の学生は2018年5月頃から、2人1組のチームに分かれ、京都市から敷地を1つ選択し、「都市のなかの自然」をテーマに事前調査を進めてきました。パリでのワークショップ初日、京都大学の学生は、各々調査した敷地についてプレゼンテーションを行いました。選んだ敷地は、「円山公園」「桂離宮」「鴨川」「六角町」「梅小路公園」などでした。これに対してフランス国立ラ・ヴィレット建築大学校(以下ラ・ヴィレット)の学生のリサーチは「Animal」「オスマンの都市計画」「農業」といった「トピック」を設定したものでした。その後、興味のあるグループ同士、京都大学組とラ・ヴィレット組で新たにチームを作り、グループワークをスタートさせました。また、京都大学の田路研究室に在籍しているTyana Santiniさんには、本ワークショップのテーマに則して「京都の疎水」に関するレクチャーを行っていただきました。
パリ市内の歩行調査【ワークショップ2,3日目】
円山公園をリサーチした我々(伊藤=筆者と高橋あかね)は、同じく京都大学の「六角町」を敷地とした川上周造・長澤寛とともに、「オスマンの都市計画」をトピックとしたNoémie EsquirosとDenis Leducのグループ、さらにスペシャルゲストである建築家のFabian Van der Leerさんも加えてグループワークを開始しました。我々のグループは、まずパリ市内の「都市のなかの自然」を発見すべくオスマンの都市計画の歴史、軌跡をたどりつつ、街歩きをスタートさせました。この歩行調査には1日半かけ、チュイルリー公園やButtes Chaumont公園などをはじめオスマンによるパリ大改造計画によって生まれた中庭や広場、運河など延べ29か所にものぼる敷地を訪れました。
他のグループも同様に街歩き、敷地探しなどから開始し、各々のトピックに沿いながら調査対象を見出していきました。動物をトピックとして都市の中の生き物を対象に調査していたグループは、梅小路公園を敷地としていたグループと組んでパリ市内を散策し、生き物という視点から自然についてリサーチを進めていました。3日目のリサーチ終了後、我々のグループのFabianさんに京都市の北部山間で進行中のリノベーションプロジェクトについて、特別プレゼンテーションを行っていただきました。
研究のアウトプット【ワークショップ4日目】
4日目、我々のグループは2日間で29か所の敷地をリサーチするというグループワークの成果をどういった形で最終プレゼンテーションとして示すか、議論を重ねました。残り2日という短い時間でできることを考え、リサーチで得た経験、知識、感覚などを共有しつつ、プレゼンテーションの形式も決定するということはこれまでのワークショップのプロセス中でも困難を極めるものでした。
我々のグループは同じ敷地を同じように歩きながらも、関心を持ったことや感じたことが全く異なっていたことや、一方で共通点も見出せたということに焦点を当て、各々の敷地やその周辺に対していうこと抱いたイメージを簡単なスケッチ、ドローイングとして、一覧表にまとめるという手法をとりました。この方法で、互いの「都市のなかの自然」というものの感じ方を共有し、議論を可視化し、それをそのままプレゼンテーションに利用することとしました。また、表をもとにした分析と議論の末、〈Buttes Chaumont公園〉を新たなリサーチ対象と定めて、最終プレゼンテーションの準備を行いました。
最終プレゼンテーション【ワークショップ5日目】
5日目の最終プレゼンテーションでは、行ってきたリサーチをパワーポイントと印刷物、ドローイングなどの展示といった形にまとめ、発表しました。
最終的に対象とした敷地に対しては、実測に基づく断面図を描いたり、京都での調査と比較し見出した共通項や特異点などをまとめたり、絵として描いたものなどを展示し、発表しました。我々のグループでは、29か所の敷地に対し、7人が1イメージずつ描いた合計203枚のスケッチをまとめた一覧表を中心に、グループワークにおける我々の思考の過程を可視化することをポイントとしてプレゼンテーションを行いました。
一連のワークショップの中で、私はラ・ヴィレットの学生から興味深い言葉を聞きました。それは「building nature」というものです。われわれ日本人の感覚では、「build」という言葉は自然に対して使う表現ではないと思われましたが、現にパリの公園、広場において、自然が建築同様「build」されていることが次第に分かってきて、納得させられました。個人的には、このようなパリと京都の自然観の違いにもしばしば気づかされるワークショップとなりました。