伝統木造建物に対する新たな耐震補強要素 「あみだ形フレーム」の提案。

伝統木造建物の耐震補強を促進するため、新たな耐震補強要素「あみだ形フレーム」を提案しています。提案するにあたり、まず要素実験によって補強要素の力学的特性を把握し、架構実験によって補強効果の確認を行いました。

伝統木造建物に対する適切な耐震補強の必要性

京都の長屋@九条

近年、1995年兵庫県南部地震や2007年新潟県中越沖地震、2016年熊本地震などの内陸地殻内地震によって、多くの木造建物が倒壊しています。京都にも花折断層という活断層が走っており、断層による地震発生時の被害が懸念されています。さらに京都には、京町家と呼ばれる意匠性に優れた伝統木造建物が市街地中心部に密集し、都市景観を形成しています。こうした伝統木造建物に対して適切な耐震補強を施すことは、人的被害の抑止だけでなく、伝統木造建物や街並みの歴史的・文化的価値の保全にも繋がるため、極めて重要です。

新たな耐震補強要素「あみだ形フレーム」

あみだ形フレームの概形

そこで、林研究室では、伝統木造建物に対する新たな耐震補強要素「あみだ形フレーム」を提案しています。あみだ形フレームは柱材と横材で構成され、柱材に横材が大入れされています。接合部は栓などの固定はなく、横材の差し込み深さは柱材径と同じです。柱材と横材の材料・本数・寸法・間隔など、既往の補強要素と比較してあみだ形フレームは設計自由度が高いことが特徴です。高い設計自由度によって、補強に必要とされる耐力や変形性能から、形状を自由に決定することができ、設計者や施主の使用意欲を高めることもできると考えています。

あみだ形フレームの力学的特性を把握するための要素実験

要素試験体の加力
試験体観察

あみだ形フレームの力学的特性(剛性・耐力や損傷状況)を把握するために、柱材・横材の材料・本数・寸法・間隔を変えた試験体を製作し、これまでに計10体の試験体の加力を実施しています。実験では、試験体だけでなく、試験体を加力するための加力装置も学生が設計します。実験準備・加力に関しても、主担当の学生をはじめ、研究室の他学生の協力の下、できることは自分たちで行います。実験準備や加力中には想定外のことが少なからず起こります。それが実験で苦労するところですが、おもしろいところでもあり、やりがいがあります。

補強効果を確認するための架構実験

公開実験

要素実験で力学的特性を把握したあみだ形フレームを、京町家を模した実大平面架構に入れ込み、補強効果を確認しました。実大平面架構の大きさは高さ約5m、幅約4mで、大工の方に実験棟で製作していただきます。このような大規模な試験体の加力時には、外部の方をお招きし、公開実験を行います。外部の方に実際に会い、関心を持っていただいていることを感じることで、研究のモチベーションも高まります。

この記事の研究室

杉野研究室

持続可能な地域形成に不可欠な建物の設計法と保全再生技術の構築。