長い歴史の中で編み出された技法で作られる風土建築
ベトナム中部・フエの山岳地帯に、「カトゥ族」と呼ばれる原住民族がいます。彼らは、植物の葉や竹などその地域で採れる材料を用いながら、長年の月日の中で知恵を積み重ね、独自の建設技法を編み出してきました。この地域は、年中気温・湿度の高い熱帯気候に属していますが、グゥールに適用されている「草葺き屋根」は、日中の強い日射を遮ることで室内に流入する熱を和らげ、「高床式構造」は、地面から室内に伝わる湿気を防ぐなどの重要な役割を果たしています。
伝統的な風土建築が文化継承の危機に
このように、長期に渡って築かれてきた「グゥール」ですが、近年、存続の危機に瀕していると言われています。建設に大変労力を要することや、そもそも建設手法を知る職人の数が減少してきていることなどの理由から、その建設が難しくなっていることが主な原因です。一方で、この地域では、グゥールの代わりとして、少ない労働力・低コストで建設可能な鉄筋コンクリート造の建物が増加してきています。しかし、こちらの鉄筋コンクリート造の建物の屋根はトタンで作られていることから、日中に多くの日射が室内に流入し、室温が激しく上昇してしまうなど、快適性の面で様々な問題も生じています。そこで、我々はなんとかして、現地住民の方々が大切にしてきた伝統的なグゥールを守りたいと考えています。
改修工事を実施し、より快適な空間を実現
グゥールを存続させるためには、その優位性を示さなくてはなりません。現地住民の方を対象にヒアリング調査を行ったところ、伝統的な技法・材料で建てられたグゥールの方が、鉄筋コンクリートで建てられた建物よりも快適だという声を集めることができました。そこで、我々は、グゥール室内の温度や湿度に着目をし、なぜグゥールは快適なのか、そしてどうすればグゥールはこれまで以上に快適な空間を実現することができるのかをシミュレーションにより検証しました。検証の結果、草葺き屋根の断熱性が優れていることが判明しました。実際にグゥールの改修工事が実施され、劣化していた屋根の葺替えが行われた結果、より快適な室内空間を実現することが出来ました。