吉田研究室は、歩いて生活しやすい街を目指して「とまり木休憩所・おでかけベンチ協働プロジェクト」という取り組みを住民の方たちと共に進めています。建築物の設計だけではない、まちづくりのプロジェクトについて、2回のインタビューをもとに紹介します。
どんなプロジェクト?
高齢者の中には比較的短い距離でも歩くのが大変という方がいらっしゃいます。公共の場所はバリアフリー設計が当たり前になりましたが、平坦な道でも、そもそもある程度の距離があれば高齢者にとってはバリアになり得るのです。
そこで、道すがら一休みできる場所を作り、徒歩での外出を支援する活動が「とまり木休憩所・おでかけベンチ協働プロジェクト」です。「歩いて暮らせるまち」を目指し、2021年度末までに京都市伏見区深草・藤森・藤城学区に46基のベンチを設置しています。ほとんどが住宅街の私有地に置かれているのが特徴です。
ご自宅にベンチを置いている久保貴枝さんにインタビュー
取材:2022年3月6日
―――この家について教えてください
この家はできてから200年ぐらい経ってるみたいですね。京都市から京町家(個別指定京町家)に指定されています。
このあたりで家の前に軒先があるのはほとんどこの通りだけになりました。ほかはみんな建て替わって。軒先が残っていることを誇りに思ってます。
―――ベンチを置く活動はどう知ったんですか?
2018年10月に名神高速の高架下の公園で開かれた竹のベンチを作る会に参加しました。
私は長いこと要介護4の義母を家でずっと介護していたんですよ。2010年に義母が逝ってしまってから時間の余裕ができたので、いろんなことをやろうっていう気持ちになっています。そこでベンチを作りますっていう話を聞いて、是非参加しようと思いました。
ご先祖さんから竹藪を相続したので、できたらそこの竹を使ってもらえるといいなという下心のようなものもありました。でもそのベンチを作るイベントの時にはもう竹も揃っていたのでそういうわけにいきませんでした(笑)。名神高速から近いところに竹藪をお持ちの方がいらっしゃって、そこの竹を使うことになっていました。義母が亡くなった後にまた主人が急死したので竹藪も今はほったらかしですね。昔はタケノコ掘りに行ったりしたんですけれど。
そのベンチ製作会でベンチを置く場所を探しているとのことだったので、じゃあうちの前に是非と。
―――ベンチをどこに置くか、作る前に決まってなかったんですか?
はい。軒先があるし雨に濡れないので設置場所に選ばれたんだと思います。
―――それももちろんですが、ご自分から名乗り出てくださったというのはとてもありがたかったと思います。
ベンチを置くことで地域に役立っているようでうれしく思っています。
―――いつ、どういう人が座っているんでしょうか?
夕方になると買い物に行くお年寄りがよく座っていきます。中学生が待ち合わせに使っていることもありますよ。
―――ちゃんと使われているんですね!
インタビュー中にちょうど下校中の小学生が家の前を通りました。久保さんが呼び止めてくださったので、突然ですが話を聞いてみました。
―――このお宅の前にベンチがあるのを知ってますか?
知ってる。
―――このベンチは誰でも使えるんだけど座ったことはありますか?
ない。
―――じゃあ座っている人を見たことはありますか?
あるで!
―――せっかくなのでベンチに座ってみてほしいです。
―――ありがとう!いつでも座ってみてください。
通りがかった久保さんのお知り合いも犬の散歩中に座ってくれました。
久保さんが子供たちも含め地域の方々に慕われているのが実感できました。ベンチを使っている人がお年寄りだけではないのも驚きです。