学年縦断講評会 VERTICAL REVIEW 2023後期をレポート

2024年1月29日(月)、「VERTICAL REVIEW 06」が開催されました。

「VERTICAL REVIEW(ヴァーティカルレビュー・VR)」は、京都大学建築学科、同大学院建築学専攻の設計演習で提出された作品の中から、各課題ごとに優秀作品を選抜して行う講評会です。学外の建築家や研究者をゲストクリティーク(講評者)としてお招きし、学生との対話を交えながら講評を頂きます。2021年から半期に1度開催され、今回で6回目を迎えました。

今回のゲストクリティークは、
2回生の課題(後期後半LIBRARY)を担当していただいている大西麻貴氏、河合敏明氏、高野洋平氏、中山英之氏、
3回生の課題を担当していただいている山本麻子氏(後期前半HOUSING COMPLEX)、藤本壮介氏(後期後半CULTURAL COMPLEX)でした。
京都大学の常勤教員からは岩瀬諒子先生が司会をしています。
また計画系助教の清山先生・早川先生・安田先生がサポートしています。
平田晃久先生は学務の都合で最後の総評に登場しました。
後期設計演習TAも多数出席し、運営にあたりました。

総評の様子
左から、平田先生、山本氏、大西氏、河合氏、藤本氏、高野氏、中山氏、岩瀬先生

それでは、各作品を課題ごとに紹介します。

■1回生後期第1課題 VISIT

建築をひとつ選び、実際に足を運んで体験した建築空間を模型やスケッチなど、様々な媒体で表現しました。自分が対象として模型化している物体の中に、自分の身体がダイブすることを想像する力の獲得を目指しました。

猪阪 千映子 『宇宙(SORA)へ』
伊東 祐貴 『木を通しての調和』
加納 環 『融和』
長谷川 泰士 『境界』

■1回生後期第2課題 NOTATION

一般的に建築と敷地はセットですが、今回は敷地にフォーカスし、印象・読み取った情報・触発する意味を、より顕在化させるような記法*を用いて表現しました。普通の模型の作り方ではこぼれ落ちてしまうものを掬い取るような作品を目指しました。

*記法:地形を表現する等高線のように、元の情報のすべてを表すわけではないが、何かしらの特徴をよく表しているもの。

猪阪 千映子 『鏡映』
佐原 直弥 『彩』
杉山 京佳 『境界』
矢橋 葉名 『木漏れ日空間を映す』

■1回生後期第3課題 ASSOCIATION

お気に入りの小説、詩、散文などから文章を選び、その空間のイメージをコアにしてそこから連想して挿絵を描くように模型と図面で表現しました。建築設計を通じた思考実験として、本質を見極め、感性を動員し、言葉の中に立ち上がる空間の表現に挑戦しました。

猪阪 千映子 『Around』
木村 祐実 『Recollection』
後藤 来誓 『光明赫奕』
山田 侑吾 『暗闇に建つ金閣』

■2回生後期前半 COMMUNITY

職と住が共存する京都という都市のどのようなcontextを読み取り、異なる人々の集まるコミュニティスペースをどのように空間化するかが趣旨になっています。

UNO IRSYAD ZAHID KAMIL 『繋げ、我々の京都を。』
藤田 幹也 『呑MMUNITY SPACE』
武田 麻由 『道から食へつなぐ「気分」』
安田 遥希 『時と人を繋ぐ道』
吉原 綾音 『公私』

■2回生後期後半 LIBRARY

人と本が一対一で静かに出会うだけではない、本とのさまざまな出会い方がある図書館を設計しました。

岡本 龍馬 『四散した本の中で』
藤本 旭 『canyon』
佐々木 翔馬 『思考する場としての図書館』
金川 拓樹 『坂とテラスと塔の図書館』
西 優洋 『本と筆、思考と空画』

■3回生後期前半 HOUSING COMPLEX

社会に占める単身者世帯数が最も多く、地方と都市を行き来する暮らし方も見られる現在、都市に集まって住むことには、より積極的な意味が求められています。これまでの核家族をメインターゲットとした住まいではなく、こどもの立場から、高齢者の立場から、働く女性の立場から、シェア居住の立場からなど、視点を多様化して「集まって住むことの豊かさ」について考察、提案しました。

伊勢 玉奈 『センス・オブ・テリトリー』
宮崎 怜 『生活が集う』
安達 志織 『ReHistoire』
閑念 真優 『おせっかいハウス』

■3回生後期後半 CULTURAL COMPLEX

大阪の茶屋町は、劇場、映画館など文化施設や大小さまざまなスケールの店舗が共存する魅力的な街です。本課題はその只中にあって、周囲と一体になりながら立体的に展開する、都市と建築とランドスケープが溶け合う場としての文化複合施設を設計するものです。

安達 志織 『都市と冠』
閑念 真優 『都市の中で文化を興す』
大槻 一貴 『漂泊の途中で』
堀江 達仁 『傍らの生息地』

■修士設計演習 INTERFACE

修士後期の設計演習「Interface」では、3人の建築家による3つの小課題に取り組み、英語で開講されます。「uncomfortable house」と題された第一課題では、快適性の意味が問い直されました。第二課題「a house that smells good」では、建築を取り巻く匂いと空間との関係を考えました。第三課題「什器と空間」ではCLTパネルの端材を使ったアップサイクルプロダクトによる空間を桂キャンパス内に提案しました。今回発表したエレナはベルギーからの留学生で、1つの共通するアプローチを用いて、3つの小課題が連作となるよう設計しました。

ELENA LEVECQ
『The Un:comfortable house』
『A House That Smells Good』
『Furniture and Space』

最後に総評を行い、ゲストクリティークの先生方から個人賞が贈られました。

大西麻貴賞 武田 麻由 『道から食へつなぐ「気分」』
河合敏明賞 堀江 達仁 『傍らの生息地』
高野洋平賞 伊勢 玉奈 『センス・オブ・テリトリー
中山英之賞 藤本 旭 『canyon』
藤本壮介賞 閑念 真優 『都市の中で文化を興す』
山本麻子賞 伊勢 玉奈 『センス・オブ・テリトリー』

今回も力作揃いのVERTICAL REVIEWとなりました。
全貌はYouTubeライブのアーカイブで、お楽しみ頂けます。

以上、2024年1月29日に行われたVERTICAL REVIEWのレポートでした。

(テキスト、写真撮影:上松真由、大橋和貴、小森幸、下地杏花、寺西志帆理、若井咲樹)

登場人物

安田 渓 | 助教

1989年東京生まれ。高校まで東京と群馬県嬬恋村の2拠点生活を送り,大学入学を機に京都に移住。高校は山岳部・大学では富士山でガイドを行う。冬はスキー場にこもって滑る生活を送る。登り降りについては人一倍繊細である。2回生設計演習にて階段をいかに正確に設計するか考えているうちにVectorWorksに付属のプログラミング言語VectorScriptに手を出し,そこからProcessing, Grasshopperをかじりながら卒業までコンピューテーショナルデザインで設計課題を制作。それが高じて建築計画学にていかにコンピューテーションするかが自分の使命とし現在に至る。

岩瀨 諒子 | 助教

新潟県うまれ、京都大学工学部卒。同大学工学研究科修了。
EM2N Architects (スイス、チューリッヒ) 、隈研吾建築都市設計事務所における勤務を経て、2013年大阪府主催実施コンペ「木津川遊歩空間アイディアデザインコンペ」における最優秀賞受賞を機に、岩瀬諒子設 計事務所を設立。建築空間からパブリックスペースまで、領域にとらわれない設計活動を行う。
2017年木津川遊歩空間「トコトコダンダン」竣工。

写真:(c) Kanagawa Shingo

平田 晃久 | 教授

1971年大阪生まれ。大阪府立三国ヶ丘高校出身。京都大学在学中、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という時代の価値観を揺るがすような出来事に遭遇しショックを受ける。そんな中、建築への希望を見出せる、自然環境のような「せんだいメディアテーク」案に魅かれ、伊東豊雄さんの事務所に入るため上京。2005年に独立して以来、生命のような有機的な建築をつくることを目指して様々な探求を行う。近作に「太田市美術館・図書館」「9hours 浅草」などがある。

写真 ©️Luca Gabino

早川 小百合 | 助教

1992年愛知県生まれ。愛知県立岡崎高等学校卒業。医師の父・芸術と園芸が好きな母に育てられた結果、高校生の頃に、数学的な美しさと理論では説明しきれない感覚的な造形美を併せ持ち得る建築学に興味を持ち、建築学科進学を決意。4回生時は林・大西研究室で五重塔の耐震性にかんする研究を行う。修士では田路研究室にて、母の影響で植物好きというきっかけから、自然環境と都市の関係が背景に見られる、ル・コルビュジエの初期の都市理論を研究し始める。修士終了後は一般財団法人にて文化財建造物の保全業務に従事。2021年10月から現職。後世に残るべき建築物の維持保全のために作品・建築家の適切な評価に努めたい。趣味は高校の部活で始めたオーボエ、寺社巡り、映画鑑賞、夫との散歩。

清山 陽平 | 助教

遍在する現代風景のローカリティを探究しています。具体的には、近代以降に発生した非計画的市街地などにて、現在の雑然さをつくる大小さまざまな変更行為の重層(ツギハギ)状態を、発生以来の生活・生業に纏わる個別具体の来歴の<跡形>群とみることで、庶民地風景の真正性評価や理解促進、ひいては今後の計画・設計へ繋げるべく、研究をしています。 1992年京都生まれ、落ちているものを拾うのがすき。