2026年1月26日(月)、VERTICAL REVIEW 10 が開催されました。
京大建築の公式YouTubeに全体を通しての動画がありますので、ぜひご覧ください。
VERTICAL REVIEW は、京都大学工学部建築学科・工学研究科建築学専攻における設計作品の中から、各課題ごとに優秀なものを選抜し、学期末に全学年合同で行われる講評会です。本イベントにはゲストとして学外から建築家の先生方をお招きし、学生と教員が議論を交わします。
今回は、ゲストクリティークとして学外から以下の先生方にお越しいただきました。
一級建築士事務所河井事務所 河井敏明
アルファヴィル一級建築士事務所 山本麻子
藤本壮介建築設計事務所 藤本壮介
MARU。architecture 高野洋平
山田紗子建築設計事務所 山田紗子
(敬称略)
あわせて、学内からは以下の教員が参加しました。
平田晃久/岩瀬諒子/榮家志保/小見山陽介/酒谷粋将/安田渓
(敬称略)
後期は1回生から3回生、修士課程の設計課題が集まりました。
卒業設計を行っている4回生はVERTICAL REVIEWとは別に卒業設計審査会が2月に行われます。
まず、各学年の設計課題についてご紹介します。
1回生 第1課題 VISIT
建築という「立体」、しかも内部「空間」を内包する3次元的な存在を他の人に伝えることを学ぶ課題です。模型のような3次元表現以外では2次元の手段を用いざるを得ません。建築図面は工業製図のような単なる設計図にとどまらず、同時に「空間表現としての2次元媒体(メディア)」でもあります。また、「スケッチ」や「写真」も同様の表現手段になりえます。本課題では、推奨建築のうち1作品以上を実際に訪問したうえで、様々な媒体でそれぞれの注目した点を表現する訓練を行いました。
志知孝治 「巡り、重なる」
清丸正寛 「人と自然をつなぐ建築」
天野菫 「森の中に」
伊藤和生 「山/川/洞窟/谷」
松尾かおる 「here,there,overthere」
有本祐真 「7万年の空間」
教員からは、自身の体験や考えを反映するためのスケール調整やトリミング、描き込み、素材の選択などの表現の工夫やその効果の是非についての言及や、学生が対象建築のどんなところに着目したり心惹かれているのかについての質問がありました。
1回生 第2課題 NOTATION
「記法(Notation)」は対象の特定の特徴や属性を強調し、読み手に伝える方法です。そこでは、一部の属性や原理が強調して認識されますが、表現されない要素が存在する点にも留意する必要があります。本課題では、表現するときに排除されてしまうものを救済し語るために、特定の敷地から読み取った情報や何か意味を触発するものを顕在化させる「記法 Notation」を考案し、模型と図面で表現しました。
天野菫 「八つの富士山」
伊藤和生 「東京音景」
志知孝治 「“らしさ”を知る」
清丸正寛 「光」
岡本弥椰子 「パン屋ネットワーク」
濱松里穏 「映り込みの世界」
松尾かおる 「家という記憶」
ここでは、スケールや方向性を横断するような素直で力強いアイデア力への評価と、優れた知識とそこに至る努力への評価は、対称的でありながらもどちらも素晴らしいものだという指摘がありました。各自の工夫を凝らした多様な表現に多くのコメントが寄せられました。
1回生 第3課題 ASSOCIATION
言葉から自分の想像力を頼りに空間を立ち上げる時、その空間は各々の頭にとって違う空間たりえるでしょう。その時、何を頼りに設計の手がかりとするでしょうか。本課題では、お気に入りの小説、詩、散文などから200~800字程度の文章を選び、その空間のイメージをコアにしてそこから連想して挿絵を描くように模型と図面で表現すること――本質を見極め、自身の感性を動員し、言葉の中に立ち上がる空間の思考を行いました。
福田実莉 「鏡の角を覗く」
LIU BEIJIA 「漢字の感じ」
酒井来夢 「立体迷路」
久世理紗子 「めぐり、いろどり」
有本祐真 「極夜の内院」
内海巧楽 「わたしが街に溶けていく」
教員から、模型の作り方とそこから伝わる作者の意識に対する指摘や、細やかな窓や添景の扱い方から伝わる空間性についての言及、表現の確立に至るまでのスタディ過程についての質問などがありました。
2回生 COMMUNITY SPACE コミュニティ施設/Urban Common Space
本課題では、都市を営む様々な人々が、それぞれの意図で共存して使うことのできる場、比較的小規模なUrban Common Spaceを設計しました。対象地域は、過去一度も市街地として途絶しなかった、京都市都心部の室町通り・新町通りの間と沿道です。都市にどのようなContextを見て取るか、さらにそのContextで異なる人の居合わせる場Common Spaceをどのように空間化するのか、この2つの関係を扱うことが目指されました。
伴優 「湯のたまり」
一色悠太郎 「環境に要請される建築、環境を要請する建築」
山本隆世 「HodgePodge Vintage」
麻生竜太郎 「話す、休む、巡る、」
寺井健太郎 「漂流者たち」
平面に限らない立体的な空間区分とつながりの面白さへの言及や、既存の形式のトランスフォーメーションのあり方の是非、地下でもない地上でもないような空間性の評価、複数の手法を組み合わせる可能性や造形のきっかけについての質問、歩行者と車両の対立やバリアについての議論、手数の増やし続けた先になにがあるのかという議論がありました。
2回生 LIBRARY 3つの本との出会い方のある図書館
インターネットに代表される新しいメディアが普及している今、これからの図書館は、先人たちの探究と私たちがどのように出会い、享受するのか、その術の多様性を探り、可能性を試すための場である、と言えるのではないでしょうか。本課題では、「3つの本との出会い方のある図書館」について考えました。1つ目は個人が本と一対一静かに向き合う場、2つ目は屋外空間、3つ目は自分自身で考えて設定しました。
阿部涼葉 「呼び込み、呼び戻す図書館」
篠原佑里 「記憶の落ち葉」
堀江拓史 「Parallel」
眞本拓実 「歩く、くぐる、交わる。~書壁の構築~」
寺井健太郎 「小さな旅」
中井てるひ 「居場所をみつける図書館」
鈴木麗雅 「肖ったり、抗ったり、」
思い切りの良い大胆なアイデアと対照的な作り込みが合わさった空間の魅力への評価や、都市との関係や連続性に対する議論、作った物に対する再評価やそこからさらに学びを得るべきだという指摘、純粋な造形や表現に対する議論、既存建築から学びながらもアイデアを慌てたように無理に建築らしくしようとしなくてもいいのではないかという指摘もありました。
3回生 HOUSING COMPLEX 集まって住むことの豊かさ
社会に占める単身者世帯数が最も多く、地方と都市を行き来する暮らし方も見られる現在、都市に集まって住むことには、より積極的な意味が求められています。本課題では、これまでの核家族をメインターゲットとした住まいではなく、こどもの立場から、高齢者の立場から、働く女性の立場から、シェア居住の立場からなど、視点を多様化して「集まって住むことの豊かさ」について考察、提案しました。
寺原彩乃 「間の家」
佐原直弥 「仄メク翳、淡ク繋グ」
西田悠人 「おしくらまんじゅうたく」
集合住宅において他人と共有できる限界がどこにあるのかという議論や、考えたことを整理してシステム化することの必要性の指摘、自身の提案に対して意識的になれているかどうかという質問、模型や図面などのプレゼン表現が案の魅力を伝えるのに適切かどうかという指摘や、外部空間との関係性についての言及がありました。また、機能に対して真面目に取り組むことと既存の枠組みから外れた新規性に至ることの間の取り合いについての議論も起こりました。
3回生 CULTURAL COMPLEX 都市と建築とランドスケープが溶け合う場―茶屋町メディアコンプレックス
現代では、人々の文化的志向性が多様化し、メディアの発達によって人々のつながりが実空間上の場所を介さないものになっています。そのような時代だからこそ、異なる傾向を持った人同士が偶発的に出会い、様々な形で同じ時を過ごせる居場所をつくることの重要性が高まっているのではないでしょうか。本課題は、大坂の茶屋町の只中にあって、周囲と一体になりながら立体的に展開する文化交流施設、都市とランドスケープが溶け合う場としての建築を設計しました。
杉山京佳 「ダレノス」
大川暖 「SENSORY EXPANSION」
矢橋葉名 「交差点の向こうを想う」
池端茉央 「私と文化を結ぶ波路」
特徴的な敷地の読み解き方とそれに対する応答についての議論、多様な空間を複雑に絡み合わせ内包させる手腕の評価、仮設と常設の違いについての指摘、思考とスタディ過程に対しての言及、特徴的な形態が生まれるプロセスや意図についての質問、実感をもった迫力のある設計が生まれていることへの評価、設計のなかの偶然性と意図的な部分について質問などが交わされました。
修士課程設計演習 竹と膜による、うつろいの場の器
京都・梨木神社の能舞台横に、四季を感じる新たな休憩所を設けるプロジェクトです。歴史的景観への厳しい規制を考慮し、常設建築ではなく、竹と膜を用いた「仮設性のある非建築」を提案します。実際に制作することを目標に、既存の竹アーチや能舞台と調和しつつ、参拝者に新しい憩いの場を提供することを目指しました。
Audrey Berhault/Maui Ackermann 「THE TWO-FACED PAVILLION」
Emma Krasowski/Elodie Beke 「THE SIXTEEN LEAVES PAVILLION」
教員からは、竹や布といった素材の扱いやそれによる効果、素材とスケールの関係に対する言及などがありました。また、スタディ段階から専門業者に助言をもらうことで様々な展開があったことにも言及がありました。
座談会・総評
講評会後の座談会では、先生方による全体の総評が行われました。

小見山先生からは、展示会全体の雰囲気の良さ、また年度ごとに特色やカラーがあるように感じられるという指摘がありました。
安田先生からは、1回生からはじまり上回生になるまでの成長とつながり、抽象的な物を徹底して作りきることに取り組めていると評価がありました。それに対して、平田先生から抽象論にとどまらず実感を持った空間が現れるのが建築の面白いところであるとの指摘がありました。
酒谷先生からは、学生の作品から自身も反省するような気づきがあったとコメントがありました。また、学生の驚くべき成長率に対する評価がありました。
榮家先生からは、自分の内にあるものを表現すること、そしてその表現を学生同士で高め合っている状況を好ましく評価するとともに、表現すること自体がゴールではないという意識を持ってほしいというコメントがありました。また、学年が上がるごとにジャンプするように成長が見られることに対する評価もありました。
高野先生からは、建築以前であるようなものも建築であって、設計という行為によって最初に考えたことをゆがめてしまうというよりも、設計という行為がフィットするようにできるといいのではないかという指摘がありました。
山本先生からは、学生とのやりとりでアイデアを膨らませていくことを楽しめた反面、1・2回生で設計に取り組めていた人が3回生まで続けられなかった場合もあることを残念に思うというコメントがありました。その時々の評価に振り回されすぎずに楽しんで設計に取り組み続けてほしいというメッセージをいただきました。
岩瀬先生からは、1回生のころの観察眼やエネルギーを、上回生になってからもう一度自分の作品に対して向けられるとさらにパワーアップできるのではないかという指摘がありました。これに付随して、平田先生から、課題は踏み台だと思うくらいのたくましさを持って取り組めばいいというコメントがありました。
山田先生からは、設計に取り組むに当たって、気づきは面白いけれど空間はうまくできなかったということなどがあっても、それを失敗だと思わないでほしいというコメントがありました。
藤本先生からは、感動したと評価をいただきました。建築という特殊なものに染まる前に世界をどう捉えるのか、ということに取り組んでいる1回生に対して、2回生になるとぐっと建築らしくなってきているという指摘があり、さらに3回生になると悩むことが増えると同時にクオリティの高い建築として作りきる情熱があるとコメントがありました。取り組んだことの評価の良し悪しよりも未来に残ることを意識してほしい、また自分の才能を信じてほしいとメッセージをいただきました。
河井先生からは、建築に限らず観察眼を磨くことの重要性の指摘がありました。建築は人の気持ちを動かせるメディアであるといことを信じてほしい、京都はそれを学ぶのに素晴らしい場所だというメッセージもいただきました。
平田先生からは、褒められなくてもセンスがあると思い込みでも信じ続け、分かってもらえるように思い切ってぶつけ続けることが大事だというコメントがありました。先生によって言うことは違うけれども、自分にとってどれがいいのかを自分で判断し、京大生として先頭を切って進んでほしいというメッセージをいただきました。
最後に、ゲストクリティークの先生方から個人賞が贈られました。
河井敏明賞 濱松里穏 「映り込みの世界」
山本麻子賞 大川暖 「SENSORY EXPANSION」
藤本壮介賞 寺井健太郎 「小さな旅」
高野洋平賞 池端茉央 「私と文化を結ぶ波路」
山田紗子賞 伊藤和生 「山/川/洞窟/谷」
以上、VERTICAL REVIEW 10 のレポートでした。
※各課題の内容は、昨年の記事”2024年度後期 学年縦断講評会 VERTICAL REVIEW 08をレポート”に沿ったものです。あわせてご覧ください。
(文:後藤梨帆・伊勢玉奈・宮崎怜/写真:宮田大樹・冨岡大機)










































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