建築学科が入る京大桂キャンパスのC‐2棟。だだっ広いホールが随一の活気にあふれるときがあります。それは卒業設計の展覧会。2020年度においては例年と大きく実施方法を変えて行われました。コロナ下での卒業設計展を、展示のルール作りの面から検証します。
こんにちは。吉田研究室M1の興梠卓人です。私も参加した2020年度の京都大学の卒業設計の講評会は、例年より1か月遅らせる形で、またオンライン併用で開催されました。この形式で開催にこぎつけるまでには、教員・学生合わせた綿密な議論があったのです。コロナ禍がなお続く今振り返ろうと、卒業設計にかかわった学生と先生に集まっていただきました。(取材日:2021年10月22日)
インタビューに来てくれた方々
北垣直輝
4回生時神吉研究室。現在は平田研究室M1。ルールの文面づくりから教員との相談までいろいろやってくれた。
神吉紀世子先生
北垣、興梠の卒業設計の指導教員。今年度の建築学科の学科長。
小見山陽介先生
建築学科の講師。昨年度のデザインラボ(4回生製図室)担当として学生に対応してくれた。
興梠卓人
デザインラボ(4回生製図室)開室まで
興梠 最初の課題はデザインラボ開室だったと思うんですけど、そこに向けてまず何をやったんですか?
北垣 スタートは10月初めにオンラインで開かれた後期のガイダンスでした。昨年度学科長の田路貴浩先生が当面はデザインラボを開けませんとおっしゃったんです。10月は結構感染状況が落ち着きつつもいつまた悪化するかわからなかったので、安全を優先したんだと思います。僕は開けられると思って田路先生に個人的に相談しに行きました。すると一旦学生でどういうふうにするかを考えて、その上でもう一回検討しようという返事をいただいたので、学生に向けて動き出そうと提案しました。
神吉 4月の前期ガイダンスは全部直前に中止になったんですよね、代替案を考えられなくて。その後もまずは1回生優先でいろいろと進んでいって。後期が始まる頃になっても桂キャンパスは二の次みたいなところがあったかもしれないですね。
北垣 学生の間でもさすがに後期はラボ開くんちゃうかっていう人もいれば、危険だからまだ厳しいという人もいた。最初の集まりが4人のおしゃべりなんですよね。森内(計雄・当時田路研究室)、岩崎(伸治・当時平田研究室)、岩見(歩昂・当時小見山研究室)、僕の4人で「ラボ開けられる派」っていうのがあって、そこで話をまとめてから学生全体に承認を取ろうという流れでした。
神吉 例えば個人個人ばらばらに事務室等に聞きに行って「まだOKは聞いていないのでダメ」って言われて帰ってきちゃう、みたいなことの方が現実にはよく起こるわけですよね。これだけのことをしようと思うとチームビルディングがそもそも必要だという話。
興梠 じゃあなんで北垣たちはできたんでしょう。
北垣 卒業設計をやる4回生は20人いて意見はバラバラでした。最初から20人に意見を確かめるのではなく、近場の数人で一度筋が通るか検討してから全体や先生に相談するっていうプロセスをずっと一年間やっていました。これを割と徹底して成功したと思います。
神吉 私は分野柄何かが自主的に起こることの世話をすることがあるので、「突破したいときは、自分たちから早めに相談して行った方がいいと思うよ」みたいなことを言った記憶はかすかにあります。自分で自分を規制するというか、自分を規制しにかかってくるルールが発動される前にみんなが受け入れられるルールを作るっていうプロセスをとった方が絶対うまくいきます。自分で作ったルールを守るほうがやりやすいので。
ヘリテージ系の古い山道でマウンテンバイクで競争する人たちがいるでしょう。そういう人たちを締め出せっていう話が出たことがあります。でもその人たちは道を傷めたいのではなくて、そこの地域とそこでのレースが好きなんですよね。だから行政ルール的に全員立ち入り禁止にするような話題が出始めたとき、当事者で「どうしたら木を傷めないか」とか「どうしたら人とぶつからないか、仲良くできるか」とかのルールを作るのが一番いいですよっていう話をしたことがあるんです。地域を好きな人なのだから。
北垣 そういうことをずっと言われ続けていたのは覚えています。
興梠 4人で用意してくれたたたき台を僕ら同期に共有したときにはもう先生に交渉に行く間際の段階でした。誰か先生を味方につけるというか理解者を得ようとしましたか?
北垣 田路先生とは個人的に連絡をしていて、あとは吉田哲先生が確かデザインラボ担当で、小見山先生もそうでしたよね。
小見山 そう、最初僕が田路先生からメールいただいたのが10月1日でした。学生たちから要望があるので小見山先生一緒にラボの開室準備を始めましょうという連絡で、マニュアル案を田路先生が作ってくれていました。
興梠 先生が作ったマニュアルがあったんですね。
小見山 田路先生が作ってくださったマニュアル案とは別に、学生たちの方でもマニュアルを考えてくれていて、それらがどこかの時点で一つになったのだと思います。教員側の動きと学生側の動きは並行して進んでいたのだと思いますが、それ以降は学生が自主的に作ってくれた、より詳細なマニュアルをベースに議論が進みました。
北垣 学生間でもルールを作らないと、ということで、基本的な感染症対策は体育会系の部活のガイドラインを参考にしました。開室時間は最初8時から18時だけにしようとしたんですけど。
神吉 見せてもらって、それだと厳しすぎはしないかと言った気がする。本当に守れるのって。
北垣 利用時間は結構学生全体で話し合いました。
興梠 そうやったね。最終的に「週に42時間まで」になりました。人が分散できるようにしたくて。
神吉 深夜もオープンした方がかえって人が集中しない、みたいな話を聞いてそうだねと思いました。
北垣 24時間開けるというルールを大学側で出すのは難しいと思っていて、やっぱり大学としては深夜もいいよとは言い難い。だからここは結構詳細に詰めました、滞在時間をスプレッドシートで管理するとか。
興梠 週42時間ルールがあったから、ラボで寝泊りするのが合理的じゃないってなったんですよ。滞在時間は全部作業に使おうっていう意識がルールには書いていないけど生まれました。
小見山 森内くんが田路研だったから田路先生と連絡取りやすいというのもありましたね。
2020年10月25日 デザインラボ開室
ガイドラインのポイント
- 「感染しない」「感染させない」ことを最優先。
- 飲食は自分の席でのみ可。
- 体温と入退室時間を記録し、週の滞在時間は合計42時間以内。