松島研観測記~邑知潟平野編~

前回の記事(「松島研観測記~京都盆地編~」)では松島研が行った京都市内での観測を紹介しました。今回は松島研の活動を伝える第2弾として邑知潟平野にて2021年10月に、3泊4日で行った観測を紹介したいと思います。

邑知潟平野って?

邑知潟(おうちがた)平野は石川県の中部に位置し、南西の羽咋市から北東の七尾市までまたがる幅が最大4キロ、長さ約40キロに及ぶ平野です。そしてその邑知潟平野の南東側に沿うようにあるのが邑知潟断層帯です。実はこの邑知潟断層帯で地震が起こる可能性が高いと予測されているのです。邑知潟断層帯を震源とした地震が起こった際に邑知潟平野がどのように揺れるのかを詳しく調べるためには地下構造のモデルを作成する必要があります。「J-SHIS 地震ハザードステーション [https://www.j-shis.bosai.go.jp/]」というwebサイトでは日本全国の地下構造モデルを閲覧・活用できるようになっていますが、今回の観測はJ-SHISよりも詳細な地下構造モデルを作成するために実施されました。

赤く塗りつぶされているのが邑知潟平野
地理院地図に加筆

京都観測との違いは?

京都市内での観測と今回の観測の大きな違いは観測方法です。地震計のSMAR(「松島研観測記~京都盆地編~」をご覧ください)を使用するところまでは同じですが、その設置の仕方に違いがあります。京都観測ではSMARを1地点で1台だけ使用する「単点観測」でしたが、邑知潟観測ではSMARを4台使用し、中心に1台とその同心円上に正三角形となるように3台設置して「アレイ観測」を行いました。単点観測はアレイ観測の簡易版のように考えてもらって大丈夫です。

アレイ観測の様子
赤丸のSMARが中心に配置してある
撮影:筆者林田

また、今回の観測範囲は京都観測よりも広範囲で大規模なものとなります。そこで、北海道大学の中嶋唯貴先生と中嶋研の学生の皆さんにも協力していただきました。松島研と中嶋研、総勢8名で2日間かけて観測を行うことになります。

10/21~24 邑知潟で常時微動観測を実施

まず10月21日、松島研は先に石川に到着し観測予定地の下見を行いました。航空写真だけを見て決めた予定地で実際に観測が行えるのかを確認するためです。山奥での観測になるので人工的なノイズが入る心配はほぼゼロですが、アレイ観測ではSMARを展開するスペースが必要になるためその確認もしました。観測位置の山中や盆地境界の地形や地質について確認するため、産業技術総合研究所の吾妻崇さんに同行して頂きました。

辻いて2日目となる10月22日、観測が始まります。4名ずつの2班に分かれてそれぞれ観測を行います。松島班と中嶋班のうち私は中嶋班でした。朝8時に出発し予定ではこの日に4地点ずつの観測を終わらせることになっていました。しかし、大事なイベントにはアクシデントがつきものです。まず、最初の観測地点に到着したときに観測に不可欠なSDカードを中嶋班がすべて持っていることに気づき、それを渡しに行くのに30分ほど時間をロスしてしまいました。また、SMARのうち1台が故障していることが観測中に分かりその後に再び計測しなおしたりと…そもそも今回の観測は1地点あたり最低でも1時間必要なのですが、1地点目の観測が終了するのに3時間ほどかかってしまいました。その後、私たち中嶋班は巻き返しを図るのですが、3地点目でまたしても問題が発生しました。結局3地点の観測が終わったのは18時ごろで山道を真っ暗ななか帰らなければなりませんでした。

観測風景
撮影:松島先生

3日目、この日に前日の残りの観測を終わらせなければなりません。スタートを一時間早めて朝7時から観測を始めます。私はぜったいにミスが許されないこの状況にとても緊張していたのですが、驚くことに観測も2日目で皆の手際もよくなり、SMARの調子も良かったためすべてがとてもスムーズに進みました。SMARの設置と撤去の時間もぐんぐん短縮されていきました。そして4地点の観測を17時には終えることができたのです。

今回の観測地点はほとんどが携帯の電波も届かないような山奥でした。計測を待つ時間が1時間もありましたが、SMARの近くでは震動を起こさないためにも車のエンジンをかけることもできず、暖房なしで待機するには肌寒すぎる時期でもあったので大変でした。ただ、前回の京都観測とは違いグループで観測を行えるのはとても心強いところがありました。北大の中嶋先生や中嶋研の学生の方ともお話ができて楽しかったです。観測の合間には金沢カレーも食べることができました。もちろんSMARを見守りながらですが。24日の午前は、松島研だけで、最初の2日間で観測したデータに問題があった地点の計り直しをして4日間に及ぶ観測は終わりました。初めて泊りがけでの観測に参加させてもらい、とても有意義な経験となりました。

観測の合間に食べた金沢カレー
撮影:筆者林田

今回の観測で得られたデータのひとつ
(上は加速度、下は周波数スペクトルを表す図)

この記事の研究室

松島・長嶋研究室

地震防災を、揺れの原因から考える。