2022年3月卒、卒業設計、卒業論文発表会をレポートします。

卒業研究を提出した学生があらためて教員や学生の前で発表を行う「卒業研究発表会」。2022年3月卒ではコロナ禍の影響を受け、オンラインとリアルをハイブリッドさせながら発表と審査が行われました。その概要を報告します。

【2022年3月卒・発表会・審査会スケジュール】
2/8(火)10:20〜14:10 環境系・発表会
2/8(火)09:00〜16:00 構造系・発表会
2/8(火)13:00〜15:30 計画系・発表会
2/18(金)13:00〜17:30 卒業設計審査会
2/19(土)〜2/24(木)10:00〜17:00 卒業設計・作品展

例年に増して多様な作品が見られた卒業設計展

桂キャンパスC2棟の1階から4階のロビーやエレベーターホールなどを活用し、模型やパネルが展示される「卒業設計展」。今年度は例年より多い25名が出展しました。

■卒業設計審査会概要
2/18(金)13:00〜17:30
発表者:25名
審査員:計画系教員+非常勤講師 計27名
発表媒体:口頭発表+模型、パネル等
発表方法:発表時間1分30秒、質疑応答6分30秒

審査には計画系教員18名(冨島義幸、トーマス・ダニエル、三浦研、吉田哲、安田渓、平田晃久、岩瀬諒子、田路貴浩、小見山陽介、早川小百合、金多隆、西野佐弥香、神吉紀世子、柳沢究、清山陽平、牧紀男、小林広英、落合知帆/敬称略)と、非常勤講師9名(池井健、魚谷繁礼、江副敏史、大西麻貴、畑友洋、藤本壮介、森田昌宏、山田紗子、山本麻子/敬称略)が参加。

コロナ対策のため司会進行をつとめる平田晃久教授と非常勤講師のみがプレゼンテーションに立ち会い、学内の教員および学生はオンラインで参加する方式が取られました。機材が昨年度よりも大幅に充実し、複数のマイクとカメラ、ミキサーなどを駆使したスムーズな配信が行われました。

発表の様子
発表の様子

配信の様子
研究室で配信を見る 撮影:野田倫生
発表直前の製図室 撮影:興梠卓人

4時間あまりで発表がなされた後、大会議室で約1時間の審査が行われました。審査方法は3段階に分かれていました。
【第一次投票】審査にあたる全員が発言する形で議論をしたのち一人5票ずつ投票。
【第二次投票】上位4作品に対し一人1票ずつ投票し、最多票を獲得した作品を最優秀賞(武田五一賞)に選定。第一次、第二次で共に僅差の次点であった作品を優秀賞に選定。
【第三次投票】残る作品のうち第一次投票における上位4作品を一人2票ずつ投票し、上位3作品を優秀賞に選定。

表彰作品は以下となりました。

最優秀賞(武田五一賞) 佐藤夏綾(神吉研究室) 磯に生きるを灯ス 撮影・入賞案キャプション共同執筆:興梠卓人
東日本大震災に遭った宮城県の鮎川に提案した、鯨の解体などの生業を見せるミュージアム。残された浜の生業に真摯に向き合った提案が「震災を受け止め、建築として形にした(藤本さん)」「死とともに生きるということを強く明るく構築している(山田さん)」などと高く評価された。また「施設というよりも漁業の拠点の延長でできている(大西さん)」「最小限の手数で建築化されている(平田教授)」と、建築の即物的なあり方にもポジティブな評が聞かれた。
優秀賞 大山 亮(平田研究室) 破壊と構築 -太平洋沿岸舟屋型住宅-
静岡県戸田湾を敷地とする、人と海が共存する住宅の提案。一度打ち込んだコンクリートを壊しながら、自然の力を利用して今までにない住宅と海岸線を生み出す考え方でできている。「堤防を自然の一部として捉える視点に可能性を感じた(大西さん)」「潮の満ち引き、反復する時間を盛り込むアプローチに感銘を受けた(畑さん)」など、土木構造物、地形、建築を融合的に捉え、形をつくるプロセスに自然の営みを応用する考え方が高く評価された。
優秀賞 若松晃平(平田研究室) 京都ギャップダイナミクス ー余白の可能性と未来ー  撮影:鈴木友也
地面や建物の高低差で生まれる空間を『ギャップ』と名づけ、木屋町周辺のギャップに立体的な路地を提案している。「(高い評価は)空間と模型の魅力によるところが大きい(藤本さん)」等、細部までつくり込まれた模型による空間表現が主に評価された。また「地と図を変換したような捉え方(山田さん)」「建築の本質を問うアプローチ(魚谷さん)」などと着眼点を評する声も聞かれた。実際にCTのように都市を高さごとに切り、空いている場所を示した図も添えられており、“敷地近くでよくアルバイトをしている(本人談:後日の卒計ツアーにて)”という独自の都市の認識が生かされた提案。
優秀賞 野上乃愛(吉田研究室) 男木島、泊まれる設計事務所構想 撮影:鈴木友也
瀬戸内海の男木島に移住して設計事務所を開き、人生と共にそこの使い方が変わりながら島全体の存続に貢献する提案。“船で島に近づいて家々を見上げた風景に一目惚れした(本人談:後日の卒計ツアーにて)”そうで、完成度の高い敷地模型でそれを追体験できる。「模型のつくり方がよく、街の風景に連続していることが伝わる。男木島が世界で一番好きだと言い切っているのもいい(大西さん)」「個人的でありつつ、大きな地域を捉えた視点も持っている(山本さん)」等、男木島への深い愛着と理解に基づく島に寄り添った提案が評価された。
優秀賞 城 怜奈(田路研究室)「ぽつん」の居場所 撮影:鈴木友也
自分だけが独りぼっちだという感覚を『ぽつん』と名付け、ぽつんの居場所となる空間を東京・渋谷に提案。模型に置かれた青い人が『ぽつん』の人だと気が付くと、絶妙な場所選びに驚かされる。「ほぼ何もつくっていないが、円通寺の(借景をもたらす)あの場所を見つけたことに近い発見のすごさがある(平田教授)」「その世界に本人が住んでいるかのような案に惹かれ、また自分もそこに入りこんでみたいと感じた(小見山講師)」など、観察と発見から都市の見え方をあざやかに変えてしまう手法が評価された。

非常勤講師として今年度はじめて審査に加わった藤本壮介さんが「力作が多く、かついろいろな視点が示された」と述べるなど、多くの審査員が力作が揃ったことに感銘を受けている様子でした。同じく今年度初参加の山田紗子さんが「死や水などコントロールできないものと向き合う提案に興味を引かれた」と指摘するなど、切実で普遍的な課題に向き合おうとする傾向も見えました。またプログラミングを用いる、構法から検討するなど、多様な設計プロセスが見られたことも特徴だったかもしれません。また構造系の大崎研究室2名からも卒業設計の提出があり、「卒業論文の研究内容を設計に応用していたことが素晴らしい(小見山講師)」というコメントも聞かれました。

第一次投票の上位作品の展示・プレゼン風景を2/23(水・祝)開催の“卒計ツアー”(神吉教授を中心に院生や4回生を交えて全作品講評をしてまわる私的なイベント)に参加したM1の興梠卓人さんによる一言解説と共に紹介し、その多様さを伝えます。

山井 駿(神吉研究室) 日常の歴史ー痕跡のスタディと空間の接続法ー 
「自分の家族と父の知人の田中さんを施主に想定して、痕跡を残しながら家族の家を解体し、そこに田中さんの家を建てるという住宅更新の提案。痕跡を次の住人が読み替えるのだが、相当細切れにしないと元と同じになってしまう。その試行錯誤が大量のスケッチからうかがえる。田中さんが展覧会を見に来て喜んでくれたそうだ」
秋田次郎(ダニエル研究室) 車窓のアーカイブー表象と差異による実験的設計手法ー
「淡路駅周辺の高架の線路沿いに、かつて地上で見られた車窓を再構成した提案。走る電車から見られることに注目した空間は徐々に柱の太さなどが変化していて、それが歩行者にとっても楽しいものになっている。『書割』と言い切ってペラペラの建築にするくらい徹底した部分があってもよかった。製図室委員として卒業設計審査会実施に尽力してくれたが、本人の時間が足りなかったようなのが残念」

林 浩平(小見山研究室)そら飛ぶイメージ
「京北の森で手に入る北山杉で小屋を作る提案。これまで山仕事サークル杉良太郎(すぎよしたろう)の活動などで実作した数々のアイテムも並べられていて、実作までのプロセスに対する解像度がとても高いと感じた。神吉先生曰く、敷地模型である箇所から木の高さが急に変わっていたら、土地所有のラインが現れるので、より北山杉のリアリティが出るそう」
豊永嵩晴(神吉研究室) 手さぐりの寸法一環境をはかる身体ー
「宝が池公園のランニングコースに薄い構造物を3つ設計し、対岸の京都国際会館の眺めや足元の傾斜で人のスケールを体感させる提案。豊永くんは写真が趣味だからか、見せたいパースは情報をそぎ落として白黒の陰影だけで表現しているのが印象的だった」
東野将人(三浦研究室)『Pedestrian School』〜歩行者空間と学校によって繋がる街〜
「高崎市の群馬音楽センター周辺の道路を歩行者空間にする提案。現在車通りが多くないので実現できそうだし、地域の人に喜ばれそうだと感じた。図面が小さかったので、子供のための空間が設計できているか見てみたい」
浅野真治(金多・西野研究室)死と共に住まう
「樹木葬と共にある集合住宅の提案。タワーマンションは空洞化も懸念されるが、樹木の墓があると集合住宅を家族で継承することがあるのかもしれないと感じた。本人の考えをぜひ聞いてみたい」

加賀大智(ダニエル研究室) 深層都市一リニア開通に伴う地下開発の可能性一
「京都市伏見区の都市公園の地下にリニア新幹線の駅を提案したもの。断面模型や図面に迫力があり、卒業設計らしいビッグプロジェクト。模型の側面に小さな通路の穴が空いていて作り込みに感心した。地下都市のプロトタイプとして大いに価値があると思う」

オンラインで行われた、構造系、環境系、計画系の発表会

卒業論文発表会は、構造系、環境系、計画系すべてオンラインで行われました。

構造系の発表会は、2/8(火)に行われました。構造系教員の投票により31名の発表者の中から、山田 英輝さんが構造系卒業論文賞(日比忠彦賞)を受賞しました。

  • 最優秀賞(日比忠彦賞) 山田 英輝 (西山・谷 研究室)
    「光ファイバとモーションキャプチャを用いたRC造耐震壁試験体の損傷計測」

環境系の発表会は、2/8(火)に行われました。17名の発表者の中から牧野 翔馬さんが環境系卒業論文賞(前田敏男賞)を受賞しました。

  • 最優秀賞(前田敏男賞) 牧野 翔馬(原田研究室)
    「カラマツ材の燃え止まりと給気量の関係に関する研究」

計画系の発表会は2/8(火)に行われました。卒論発表会を踏まえて講師以上の計画系全教員で投票し、12名の発表者の中から最多得票の卒業論文が表彰論文として選ばれました。本年の受賞者は川岸 夕夏さんで、身近な緑に対する細やかなまなざしと丁寧な調査が高い評価を得ました。

  • 最優秀賞(森田慶一賞) 川岸 夕夏(柳沢研究室)
  • 「菊浜学区における高瀬川の庭的活用に関する研究」

以上、2022年3月卒の卒業設計、卒業論文の発表会・審査の報告です。