今年度の表彰者は? 卒業設計、卒業論文の発表会をレポート。

学部4年間の取り組みの集大成を表現! 卒業設計、構造系・環境系・計画系それぞれの卒業論文の、発表会と審査の方法をレポートします。

キツく底冷えし観光客も若干まばらになる京都の2月。しかし京大桂キャンパスはこの時期が、最もアツく盛り上がる季節なのかもしれません。卒業研究の発表会やその審査が行われるからです。

発表会とは、卒業研究を提出した学生があらためて教員や学生の前で発表を行う機会です。プレゼンテーションや展示、それに対する質疑応答などが行われ、最終的に優秀な論文や作品は表彰されるという、緊張感のある場です。卒業設計、構造系・環境系・計画系それぞれの卒業論文の発表会や審査がどのように行われるのか、最優秀賞は誰が受賞したのか。すべてレポートします。

【2019年3月卒・発表会・審査会スケジュール】
2/6(水)13:00〜16:20 環境系・発表会
2/12(火)10:00〜12:00、13:00〜15:00 構造系・発表会
2/15(金)13:00〜17:30 卒業設計・発表審査会
2/16(土)〜2/22(金)10:00〜17:00 卒業論文・閲覧会/卒業設計・作品展

※毎年日程は前後します。

1階から4階まで、C2棟がまるごと卒業設計の展示空間に。

「卒業設計・発表審査会」は、大がかりで華やかです。今回は20名が発表しました。桂キャンパスC2棟の1階から4階まで、ロビーやエレベーターホールなどの一部が発表者ごと振り分けられ、そこを“敷地”に模型やパネルを組み合わせた、大型の”展示ブース”が並びました。

■卒業設計・発表審査会概要
2/15(金)13:00〜17:30
発表者:20名
審査員:計画系教員+非常勤講師 計18名
発表媒体:口頭発表+模型、パネル等
発表方法:発表時間3分、質疑応答7分

最優秀賞(武田五一賞) 伊藤健(平田研究室)「多重露光」 京都の繁華街にある元・立誠小学校をリノベーションし、時間の重なりを感じられる、新しい空間体験を提案。
優秀賞 長谷川峻(平田研究室)「都市的故郷ー公と私の狭間に住まうー」。公と私の境界の心地よさに着目し、東京・高田馬場のビル群の隙間を縫うように連なる住宅群を提案。

審査には、計画系の教員と設計演習を担当した非常勤講師が参加するとのこと。発表者とほぼ変わらない18名もの方が会場に来られていました。

進行する平田教授と、質疑応答に対応する発表者。審査には計画系教員すべてと、非常勤講師(江副敏史、森田昌宏、山本麻子、畑友洋、魚谷繁礼、池井健/敬称略)が参加。

発表は4階から1階へ、それぞれ作品の前で行います。1人あたり発表3分、質疑応答7分で、時間厳守で進みます。質疑応答では平田晃久教授の進行のもと、審査員からランダムに質問が飛んできます。中には弱点をずばりと指摘する厳しい質問もありますが、過去の演習などで作風を知る教員も多いためか、プレゼンで十分伝わらなかった特徴を引き出そうと助け舟を出す質問もしばしば。

同級生や製作を手伝った後輩など、たくさんのギャラリーが集まる中でプレゼン。会場の寒さも相まって、多くの人はコートやマフラーを着込んでのぞんでいます。

4時間近くかけて発表がなされた後、大会議室で約1時間、審査が行われました。その間発表者は、デザインスタジオなどで待機します。

優秀賞 長澤寛(田路研究室)「架竅」 関門海峡に面した風光明媚なエリア、和布刈地区の港、鉄道駅、高速道路のPAという3つの交通拠点を、地形に合わせて流動的につなぐ案。

審査方法は二段階に分かれています。まず一人5票ずつ、投票します(一次審査)。そして審査にあたる全員が発言する形で議論をし、票の多い数名を抜粋し、一人1票で決選投票します。その結果を踏まえてさらに議論を重ね、最も票の入った作品を最優秀賞(武田五一賞)、2〜4位を優秀賞としたとのことです。一次審査、二次審査ともに、どの審査員がどの作品に票を入れたのかまで詳細を発表者に伝えるので、明快です。

優秀賞 西村佳穂(竹山研究室)「in the ground, on the air ーみかん栽培放棄地に人の営みを再生する建築ー」 九州のみかん栽培放棄地に、大きな橋と地中に埋設された文化施設を設け、地域の魅力を再発見させる。

表彰作品は以下となりました。

構造系は、ポスターセッション形式で。

今回29名が発表し、建築学科の卒業研究発表会では最も発表者が多い「構造系・発表会」。昨年度よりポスターセッション形式で行われています。

■構造系・発表会概要
日時:2/12(火)10:00〜12:00、13:00〜15:00
発表者:29名
閲覧者:構造系教員+各研究室の学生・研究生
発表媒体:B1サイズのポスター(ボードに貼付するかポスターフレームを使用/書式・まとめ方自由)
発表方法:閲覧者がまわり、適宜質疑応答を行う。教員は4時間で全員分の閲覧を行う。

大会議室がたくさんのパネルで埋め尽くされます。

発表者は、10時〜12時、13時〜15時の計4時間、ポスターの前で待機し、閲覧者に対応します。閲覧者がつづけてくる場合もあれば、1時間誰も来ない場合もあるそうです。構造系の教員は4時間ですべてのパネルを閲覧しなくてはならず、時間の余裕があまりないため、1人あたり5分から10分程度で済ませなくてはなりません。各研究室の学生・研究生も閲覧し、発表者に適宜質問をします。長丁場となるため、会場には菓子類、コーヒー、お茶が用意されます。まるで国際学会のスナックサービスのようですね。

質疑が行われている一方で、待機中とみられる発表者も。発表者も閲覧者も、みなスーツ姿です。

この発表、使えるスペースや機材がかなり限られています。動画で説明する必要がある場合はコンピュータを用意してもよいのですが、プロジェクター、スクリーン、電源は使用できません。またコンピュータは学生が管理する必要があるそうです。

2/16(土)〜2/22(金)10:00〜17:00 卒業論文・閲覧会/卒業設計・作品展の期間には、ポスターが展示されます。
ポスターのまとめ方の例。中央は最優秀賞(日比忠彦賞) 大西科子(池田・倉田研究室)「低硬度ゲルシートを利用した損傷制御型合成梁の開発」のポスター。

構造系教員の投票により、最優秀賞(日比忠彦賞)が後日発表されます。今年度の表彰論文は以下になりました。

  • 最優秀賞(日比忠彦賞) 大西科子(池田・倉田研究室)「低硬度ゲルシートを利用した損傷制御型合成梁の開発」

スクリーンを用いて口頭発表を行う環境系、論文審査の計画系。

つづいて環境系・発表会を紹介します。口頭発表形式で、研究分野問わず論文の発表形式として一般的な方法となっています。

■環境系・発表会概要
日時:2/6(水)13:00〜16:20 
発表者:19名
聴講者:環境系教員+各研究室の学生・研究生
発表媒体:口頭発表+プロジェクター、スクリーンを用いたプレゼンテーション
発表方法:発表時間7分、質疑応答3分

環境系・発表会の様子

発表者は論文の内容を口頭発表しますが、プロジェクターとスクリーンを用いることができるので、各自パワーポイントなどでまとめ、練習をしてのぞむようです。1人あたり発表7分、質疑応答3分で、ベルを用いて時間厳守で進めます。環境系の教員すべてが聴講し、質疑応答では指導教員以外の先生方が主に質問をします。環境系の場合、温熱、光、火災、音といった分野により用いる理論が異なるので、質問も論旨を問うものから、前提を確認をするものまでさまざまです。教員が、卒業論文発表会の発表と、卒業論文閲覧会の論文本体の閲覧を踏まえて投票を行います。 最優秀賞(前田敏男賞)は閲覧会の会期終了後に発表されます。今年度の表彰論文は以下になりました。

  • 最優秀賞(前田敏男賞) 吉田悠起(西野研究室) 「多層ゾーンモデルを用いた地下街火災時の煙流動予測に関する研究」


最後、計画系論文の審査方法を紹介します。

■計画系論文・閲覧審査の概要
日時:2/16(土)〜2/22(金)10:00〜17:00 卒業論文・閲覧会
発表者:15名
審査員:計画系教員(講師以上)13名
発表媒体:論文冊子
審査方法:卒業論文・閲覧会の期間中、教員が各自で卒業論文を審査する。

計画系・環境系の卒業論文・閲覧会の風景。別室で構造系の卒業論文・閲覧会も行われます。

計画系の論文は、2/16(土)から2/22(金)にかけて開催される卒業論文・閲覧会で、審査が行われます。まず計画系教員(講師以上)13名が期間中に、論文を各自閲覧します。後日、ひとり一票ずつ投票し、最多得票の卒業論文が表彰論文として選ばれます。今年度、出展者の所属研究室で多いのは建築社会システム工学の金多研究室が6名、都市防災計画学の牧研究室が4名、建築史学の冨島研究室が3名でした。計画系の多くの学生が卒業設計のみの提出を選ぶことから、所属研究室に偏りが生まれるようです。研究テーマは古社寺の調査研究から不動産証券化まで振り幅が大きいので、閲覧するには幅広い視野が求められます。

  • 最優秀賞(森田慶一賞) 多田篤人(三浦研究室)「VR技術を用いた垂れ壁の印象評価 ―認知症グループホームを対象として―」


以上、卒業設計、卒業論文の発表会・審査のすべてを紹介しました。同じ建築学科でも、最後に設計をするか、論文を書くか、そしてどのような系の研究を行うかによって、研究の内容やプレゼンテーションの方法にはバリエーションがあるということが実感できました。なお、発表や審査の方法は毎年これと決めているのではなく、毎年試行錯誤しながら少しずつ変えているそうです。

全体を通じ、個人的には卒業設計や卒業論文(特に卒業設計)にかけられた熱量に驚きました。感心する一方で、表彰されなかった方のことが少々心配にも……。

卒業設計や卒業論文というのは、うまくいけば一生モノの勲章と考え方の基盤をつくれます。しかし仮にうまくいかなかったとしても、社会に出てからの失敗とは異なり経歴に傷はつかないので、切り替えて新たな機会で挽回してほしいと思います。

共同執筆者

高塚 康平 | 助教

1989年転勤族一家に生まれる。洛南高校を卒業後、京都大学工学部建築学科に入学。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、博士課程を2年で修了。2015年4月より現職。趣味はDIY。甘いお菓子が大好きな猫舌。