海外から京大建築へ 留学生インタビュー第1回

京都大学はアジアの中でもランキング上位の大学の1つであり、また日本の文化にじかに触れられる京都という地にあります。この大学に憧れる学生は日本人だけではありません。近年海外からの留学生が増え、京都大学に一歩踏み入れると、国際色豊かなキャンパスを目にすることでしょう。では留学生はどのように京都大学での生活を楽しんでいるのでしょうか。

京大には留学生がたくさんいる

高校のときまでは外国人の友達なんて1人もいませんでした。強いて言えば「マラーラ」さんとみんなが慕う近所のお母さんがいましたが、彼女はおそらく日本人だったと思います。しかし京都大学に入学すれば中国人、韓国人、フランス人、ロシア人、世界中の同じ年代の学生と出会います。校内を歩けば毎日必ず10人以上の外国人留学生とすれ違う程その数は多く、ハンガリー人やアメリカ人の部活の先輩に日本の武道を教えてもらうことはもはや京大では当たり前。彼らの生活は興味深く、私自身は留学生と話をするのがとても好きでした。そこで今回、京大の建築学専攻の留学生たちの学生生活を覗いてみたいと思います。

中でも一番多い、中国からの留学生5名をお呼びし、彼らがどのようなきっかけで京都大学に入学したのか、日本ではどのような生活を楽しんでいるのか、インタビューしてみました。

(トップ画像左順に稲本(インタビュアー)、焦、王、謝、孫、劉)

焦健さん(ショウ・ケン 以下、焦):竹脇・藤田研究室修士1回。学部1回生の時から京都大学建築学科で勉強をしている。建築の構造学に興味があり、構造系の研究室に所属。
王彦棟さん(ワン・イエンドン 以下、王):聲高研究室博士課程。中国では土木を専攻しており、修士を卒業。博士から京都大学大学院に入学し、鉄骨造を専門とする聲高研究室に所属。
謝華栄さん(シャ・カエイ 以下、謝):小椋研究室博士課程。中国で建築環境物理学を専攻しており、修士を卒業。博士号を取得するため、日本に留学し、京都大学大学院の博士課程に入学。
孫雪莱さん(ソン・シュエライ 以下、孫):小椋研究室修士1回。中国では情報専攻の学部を卒業。建築の環境分野に興味があり、大学院から京都大学大学院建築学専攻に入学。
劉媛さん(リュウ・ユエン 以下、劉):西山・谷研究室修士1回。中国では土木を専攻し、学部を卒業。大学院から京都大学に入学し、コンクリートを専門とする建築構造系の研究室に所属。

海外へ飛び出すきっかけはさまざま

—  さっそく、留学しようと思ったきっかけ、そしてなぜ日本を、なぜ京大を選んだのかを教えてください。

焦—  元々建築構造学に興味を持ったのは2008年に中国で起こった四川大地震でした。あの時は中国中が悲しい雰囲気に包まれていました。私はそのときから建築の構造に興味を持ち始め、地震がよく起こる日本では耐震の技術や研究が進んでいると思い、日本に留学する事を決めました。

私は中国にいた頃から日本のアニメ、特に名探偵コナンやカードキャプターさくらなどがとても好きだったので日本に行きたいという強い思いもありました。

孫—  私は単純に、将来働いてからだと海外に留学する機会がないと思ったので学生のうちに中国の外の世界を見てみたいと思ったからです。

そこで京都に旅行した時にとても素敵な街だと感じていたので京都にある大学を選びました。将来、空調関係の仕事に就きたいので京都大学の建築環境系の研究室にコンタクトを取りました。

王—  僕も孫さんと似ています。就職してからだと海外で勉強する時間はないので学生のうちに留学したいと思いました。そこで、一度国際学会で奈良に行った時の日本の緑豊かな風景を思い出し、留学先を日本に決めました。

それと僕の修士の先生も京都大学に留学していた経験があるのでその話を聞いて京都大学を選びました。土木を専攻していて、聲高先生の昔の上司の吹田先生を知っていたので直接コンタクトを取りました。

劉—  私は、将来大学の教員になるというのが1つの選択肢にあるのですが、中国の一部の大学では教員になるための応募条件に海外で博士号を取得することという項目があります。

学部の2年半、中国で日本語の授業を受けていたので、日本語も少し話せましたし、近いのでその留学先を日本に決めました。西山研究室はネット上で知り、直接西山先生とコンタクトすることが出来ました。

謝—  私も劉さんと同じです。将来は中国に帰って大学の教員になりたいので海外での博士号取得が必要です。

また私が中国で所属していた研究室の先生も今私の所属している日本の研究室で博士号を取得しているので、私もそれに倣いました。

 

—  人によって色んな背景がありますね。焦さんのようにその分野が強い国に留学しようという気持ちはとても尊敬しました。また確かに仕事を始めると留学の機会はなかなかないと思うので学生の内に思い切って海外の大学で勉強するという選択をするのはとても良いと思います。劉さんと謝さんからは将来のために海外留学が必須であるという固い意志が感じられ、とても刺激を受けました。

学生生活で感じる日本と中国との違い

—  学校生活や私生活において中国と日本の違いを感じたことがあれば教えてください。

焦—  色々ありますが、一番はやはり夜になると静かで寂しいことです。日本は夜、街灯も消え、人気もなくなりとても外が静かです。それは寝るにはとてもよい環境なのですが、中国で育ってきた私たちは夜でも外が明るく、公園にたくさんの人が集まっている環境の方が落ち着きます。みんな公園に集まり近所のおじいちゃんやおばあちゃんともとても仲がいいんですよ。

焦さんからもらった夜の中国の公園の様子

劉—  そうですね、私も寂しさをとても感じます。中国の大学生は9割以上が学校の敷地内にある寮に住んでいます。そのため、宿題で分からないことがあればみんな夜に集まったり、休日にはみんなで遊びに行ったりとても楽しかったです。日本では基本的にアパートに一人で下宿していますよね。なのでそのような集まりが減ってしまったのは残念です。

しかし料理をしたり、生活用品を揃えたりと自分で身の回りの家事を行うのは少し大人になった気分もします(笑)前に地震が起きた時ガスが止まってしまい、自分でボタンを押して直すことができた経験は寮生活ではありえないことです。

—  寮生活はとても羨ましいです。9割以上とは驚きましたが4〜6年一緒に生活すればとても仲良くなることができそうですね。一応私たちも、学部時代はみんな吉田キャンパス近くに下宿していたので、夜まで誰かの家に集まったり、テスト期間中は近くのファミレスで勉強したりしていました。しかし4回生になって桂キャンパスに通うようになってからは吉田の時よりも広い範囲に下宿先が散らばってしまったので集まりにくくなり同じような寂しさは感じますね。

孫—  私は私生活で言うと、果物が高くて困っています。中国にいるときは毎日食べていたのに日本では高くて買えません(笑) でも日本にきて感心したのは、細かいところまで気配りしているということです。私は今ジムに通っていますが、自分が使った後にマシーンを拭くためのタオルがあったり、電車に乗ると弱冷車や女性専用車両があったり、生活するのにとても快適さを感じます。

王—  快適さと似て、とても便利さを感じます。バスは時間通りに来ますし、公共交通機関の交通網も、とても発達しています。ごみの分別は厳しいですが、それはいいことですね。あとは、日本は人口密度がとても高いと聞いていたのに実際に来てみるとみんなの実家はマンションでなく一戸建ての方が多いことを知り少し驚きました!

—  確かに日本はかなり快適な環境が提供されていると思います。その分私はわがままになっていますね、、、、ちなみに京都は人も車も多くて道路が混んでいるので、バスは他の県と比べても遅れる方ですよ。私はこの数分の遅れにも不満を感じてしまいます(笑)

みんな—  えぇ!

—  では学校生活では何かありますか。

謝—  研究室の雰囲気はかなり中国とは違いますね。

王、劉—  はい、それは私たちもとても感じます。

謝—  日本では先生と学生との距離がとても近いです。先生も学生と一緒に同じ食堂でご飯を食べますし、先生も優しいので、生活や研究のことなど相談しやすいです。

王—  僕たちにはそれはありえませんでした。中国では先生のことをBOSSと呼んでいますよ(笑)

謝—  あとは、国際交流の場が少ないように感じます。中国では2週間に1回、外国人の先生の講演があり任意で聞きに行くことができました。そこはとても英語の勉強の場になりました。

劉—  他にはそうですね、、、授業の出席率がちょっと低いかもしれません。。。

—  確かに、出席率の低さに関してはノーコメントにさせていただきます。。。(汗)確かに大学院になってからは先生とご飯を食べに行く研究室が多いので話しやすいですね! 他に、日本に来てよかったことはありますか?

焦—  私はコナンが好きなのでコナンの映画の舞台を実際に見て回れたのはとても感動しました!

—  京都なら「迷宮のクロスロード」で京都タワーや五条大橋が出てきますねぇ。 

王—  研究生活の他に自分の休みも楽しめるのがとてもいいです。僕は休みの日にハイキングに行くことがとても好きになりました。

劉—  やはり日本人の友達とおしゃべりすることが楽しいです。いろんな文化の違いについて知ることはとても新鮮です。

— 逆に大変だったことは?

焦—  やはり日本語に少し障害を感じます。中国語はどちらかというとストレートな言葉なので、日本語の細かい言い回しやニュアンスを汲み取ることがとても難しいです。それはゼミや先生との打ち合わせの時に感じます。あと他に、日本人は勉強もサークルや部活動もうまく両立してすごいなあと思います。ほとんどの人が学外活動をしているのでとても豊かな学生生活を送れていると思います。

—  確かにサークルや部活動や、他にも自分の好きなことに没頭している人は多いですね。これは日本というより京大の自由な校風によるものかもしれません。

劉—  そうですね、わたしも不便なところもいくつかあると思います。保険料とか年金とかの手続きがややこしいですし、手数料とかの人件費が高いです。あとは、宅配ボックスがないことですね。中国では公団住宅の出入口にコインロッカーのようなボックスが何個か設置されていて、宅配業者さんは宅配品をボックスに入れたあと、我々の携帯に宅配品を受け取るパスワードを送ります。そして、そのパスワードを利用して宅配品を受け取ります。

中国の宅配ボックス

—  おおお!これはとても便利そう! 一人暮らしにとって宅配の受け取りというのは一番困難なものです。

謝—  僕も同じようなことを感じています。日本は色々な手続きの効率が少し悪いかもしれません。そして焦さんと同じくやはりゼミや先生とのコミュニケーションの際に十分に理解できていない部分があります。

— 最後に、現段階の意見では将来は日本で働きたいと思いますか?

焦—  そうですね、働きたいと思います。最近はインターン情報も調べています。

劉—  私も機会があれば働きたいですね。でも特に中国がいい、日本がいいというよりは仕事内容で選びたいです。

謝—  私は中国の大学教員になりたいと思います。

孫—  私もやはり中国で働きたいです。

王—  僕も中国で土木・建築系の仕事に就きたいですね。

—  それでは、本日はとても興味深いお話をありがとうございました。初めて聞くことも多く、面白かったです。日本での生活楽しんでください!

インタビューを終えて

インタビュー中は日本語の単語を劉さんに中国語に翻訳してもらったり、王さんの英語を謝さんが日本語にしてくれたり、日本語・中国語・英語が飛び交って難しかったです。そびえたつ言語の壁。乗り越えたし。

(インタビュー:2018年10月12日 桂キャンパスにて)

この記事の研究室

小椋・伊庭研究室

人の暮らしと文化を守るため、建築に関わる熱湿気問題を解く。

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人々の安全と財産を守り、快適な空間を長期間にわたって提供する。

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制振技術を用いた安全・安心な建築物の実現に向けて。

聲高研究室

鋼材の特性を最大限に活かした空間構造の研究と開発。