2024年度前期 学年縦断講評会 VERTICAL REVIEW 07をレポート

2024年8月9日(金)、VERTICAL REVIEW 07 が開催されました。

VERTICAL REVIEW は、京都大学工学部建築学科・工学研究科建築学専攻における設計作品の中から、各課題ごとに優秀なものを選抜し、学期末に全学年が合同で行う講評会です。ゲストとして学外の建築家や研究者の方をお招きし、学生と教員が一緒になって議論を行います。今年は京都大学オープンキャンパスと併せての開催で、昼間は高校生の皆さんにも展示風景を見学していただきました。

趣旨説明の様子

今回は、学外から魚谷繁礼先生、畑友洋先生、平野利樹先生、山田紗子先生にお越しいただきました。
全体の進行は、京都大学の平田晃久先生と岩瀬諒子先生が担当されました。
常勤の先生としては、田路貴浩先生、神吉紀世子先生、三浦研先生、柳沢究先生も参加されました。

吉田キャンパス総合9号館の4階ギャラリーを使用して展示が行われました。

それでは各学年の設計課題についてご紹介しましょう。

1回生前期前半 HAND

建築作品を題材として、紙と鉛筆、インキング等を用いてドローイングを行いました。

一色悠太郎 「30st Mary Axe」

寺井健太郎 「DDP」

中川藍 「33rd lane」

渋谷宇汰 「中京郵便局」

中井てるひ 「なんばパークス」

1回生前期後半 DIGITAL——重層する空間としての箱庭世界の構築

この課題ではCADやCGなどのデジタル技術を習得しました。その上で、3Dスキャンしたモノをベースとして様々なモデルを加え、ミクロ・マクロスケール双方向に展開させることで、重層する箱庭世界をつくりました。

池本幸太 「戸棚」

勝田万丈 「共生の緑都」

寺井健太郎 「溺れる人」

堀江拓史 「ガラス玉一つ落とされた」

2回生前期前半 PAVILION

建築にはさまざまな用途が与えられていますが、用途を取り去っても、そこにはなお「建築」と呼べるものが残ります。それは人を取り囲むなにがしかの物体であり、それによって人はなにかの感情を呼び起されます。この課題では、こうした元初的な建築である「パヴィリオン」に取り組みました。

岡崎颯太 「Stairs」

安田梓紗 「散彩 -ちりいろ-」

大川暖 「GRAY」

矢橋葉名 「寂しさの結晶」

2回生前期後半 HOUSE――生きている家

家は、ある人々の生活をうけとめるために生まれ、人々の生活とともに長い時間を生きていくことになります。時間とともに変化する人々の生活に対し、変化を受け止める柔軟さを備えていることが大切かもしれませんし、不動で建ち続ける強さが必要になるかもしれません。それぞれの場所で人々とともに生きていく時間を想像しながら家について考えました。

保田晋作 「家付き多面体」

木村祐実 「届く、重なる、繋がる」

佐原直弥 「To be continued…」

猪阪千映子 「快速」

3回生前期前半 MUSEUM――inter-active:第4世代の美術館

2022年の国際博物館会議で、これからの博物館は誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育むものであると定義されました。アート自体もその作品形態や形式は多岐に及び、様々な立場が混ざり合い、入れ替わるような複雑さを呈するようになってきました。こうした概況を踏まえ、見ることや参加すること、つくることが開かれ、それぞれが特権的でないような場を目指して設計を行いました。

佐合慶哉 「カスケードの誘い」

安田遥希 「重なり、交わり、溶け込む」

武谷真吾 「/HA /KA /MA」

3回生後期後半 SCHOOL――未来の自由な学びの場:小学校を「発酵」させる

現代では、自らの視点で多様な可能性を見つけ、お互いを尊重し、協同しあい、豊かな社会をつくっていける個性が求められています。そうした精神性を育むために、典型的な小学校を「発酵」することで、小学校をより自由な学びのための場所へと変容させることを目指しました。

藤本旭 「立つための壁」

長竹璃子 「余白、さんざめく」

佐野聖真 「追想クロスオーバー」

武田麻由 「立体グラウンドでよく学び、よく遊べ」

4回生前期 STUDIO

4回生のスタジオ課題では、それぞれの研究室ごとに異なる課題が出されました。

● 大崎スタジオ コンピュテーションが形作る建築空間

近年の施工技術・コンピュータ技術の発展に伴い、複雑な形態の建築が数多く現れるようになっています。大崎スタジオでは、コンピュータによる解析技術を用いた建築形態創生の可能性を追求しました。

松尾孝太郎 「Resonance」

● 平田スタジオ 遠くを引き寄せる小さな建築

建築は本来、いまここにいるわたしたちのためだけのものではなく、いまではないいつか、ここではないどこか、わたしではない誰かを幾重にも引き寄せるべきものなのではないでしょうか。人々の潜在的な想像力を掻き立てる、遠くを引き寄せる小さな建築を構想しました。

南沢想 「わたしの家に世界を投影する」

閑念真優 「「わたし」の思いだしかた」

● 神吉スタジオ 場所の力

これまでにない変化を見せる現代の都市・地域で、どのようなランドスケープが受け継がれ創造され得るでしょうか。新しいランドスケープに向かうために、場所に潜む力を読み、その力を顕在化させる建築と都市・地域の提案を目指します。

堀江達仁 「デルタの飛距離」

修士課程設計課題 立体アーバン・ファブリック―新しい都市ユニット―

京都の東九条地域を対象に、大学を卒業した若者が働き、住むことができる、地域住民から市内、国内、国外からの来訪者も巻き込んだ魅力的なコミュニティ拠点を計画しました。個々の建物が相互に連関しながら多様な空間を内包する都市組織という視点を踏まえ、地域の現状を分析することで、都市組織の改善にいかに寄与できるかを考えました。

NICOLAS DEVOS・川村 宗生・小幡 直・KATIA ALILECHE 「Adaptive Urban Tissue Project」

座談会

講評会後の座談会では先生が集まって全体の総評を行いました。ここではゲストクリティークの先生の議論を抜粋して紹介したいと思います。

畑友洋先生は、設計に取り組む最初の時期にはコンテクストがないことが特徴的で、どこか野性的・感覚的に作る印象を持ったといいます。3回生になるにつれて次第に論理的な計画論が叩き込まれていくのですが、どこか当初の野性的・観念的なものが出てきて、両者が引き裂かれたものが生じます。その上で、4回生以降になると、感覚的なものと計画的なものがうまく合わさったものが出てきたと感じたそうです。論理的な計画論ではブレイクスルーにはなりませんが、観念的すぎても設計にはなりません。その中で苦しんでいる人もいたのかもしれないけれども、それはそれでいいのではないかとコメントをしました。

平野利樹先生によると、京大建築の特徴としてフォルマリズム(形式主義)、つまり形そのものの作られ方について注目することで建築をつくる傾向があるそうです。全体として、2回生にフォルマリズムが始まり、3回生で苦しんで、4回生でフォルマリズムで離脱、あるいはフォルマリズムで突き通そうとする傾向があるといいます。今の時代は色んな価値観が乱立し、多様化しており、議論が成立しづらくなっています。そうした中で平野先生は、形への注目は批評における共通の土台として機能しうると分析します。京大では色々な議論が誘発されて、疑問や興味を持ったので、フォルマリズムは大事だと感じたとのことでした。

一方で、形のみで考えることに対して疑問を持つ意見もありました。

山田紗子先生は、設計課題について、現代的な問いを投げかける点が面白いと感じたといいます。一方で、学生の設計作品をみるとやはり形で答える感じがしたとのことで、形だけでは現代的な問いに答えられるのかという疑問を持ったそうです。4回生になって、形だけで現代的な問いに答えられるのかという疑問が生じたとき、やはり形の提案で応えていこうとするけども、形が出てくる前段階の問いがまだないようにみえるといいます。形以外にも論点となった、スケールを超えていく人の認識などの議論とどう交わるのかにも興味をもったと話をしました。

魚谷繁礼先生は、プログラムから計画学的に考えるのではなく、自立した建築の空間を作っているものが多いことが印象的だったそうです。形ありきで考える悪い意味でのフォルマリズムもあったかもしれないが、こういう場所を作りたいと考えるものもあったとした上で、やはり後者のほうがよいといいます。課題を超えて、建築を通して自分がどういう空間をつくっていきたいかを考えていけるとよいのではとコメントをしました。

こうした議論を踏まえ、平田晃久先生が次のように総括しました。

平田先生によると、建築や人間も変化しており、現在は過渡期にいるといいます。芸術にしても、あるジャンルがあって、純粋な表現形式があって、その形式の中でものを作っていくのが近代だったのですが、現代はそのジャンルの純粋性を前提とした考え方が変わってきているそうです。けれども、一旦純粋性を考えようとするのがフォルマリズムなのではないかと指摘します。

建築は必ずなんらかの形式性をもっており、形だけではとらえられないものも形式性の中でとらえていかないといけません。現在では、言葉と面積で記述できるような建築のプログラムはほとんど解体しており、様々な要求がうごめいている状態をどう建築に翻訳するかを考える必要があるそうです。プログラム対フォルムでは二分できないといいます。

2回生になると、PAVILIONでは機能がない建築をといわれて形を作るものの、形だけ作っていればよいわけではないといわれ、葛藤を抱えたりします。そういう悩みの中で、3回生の美術館では現象も建築も一緒に捉える課題が降ってきますが、いきなりは完全に取り組めません。そうした流れを見て、現代の建築家が直面している課題そのものが問われているように感じたとのことでした。

座談会の様子

最後にゲストクリティークの先生から個人賞が贈られました。

魚谷繁礼賞   南沢想   「わたしの家に世界を投影する」
畑友洋賞    閑念真優  「「わたし」の思いだしかた」
平野利樹賞   矢橋葉名  「寂しさの結晶」
山田紗子賞   佐野聖真  「追想クロスオーバー」

京大建築の公式YouTubeに全体を通しての動画がありますので、ぜひご覧ください。
京大建築 Vertical Review 07 – 2024.8.9 (youtube.com)

以上、VERTICAL REVIEW 07のレポートでした。

(文章:四十坊広大・樋田蓮、写真:小野巧真・和田大輝)

登場人物

平田 晃久 | 教授

1971年大阪生まれ。大阪府立三国ヶ丘高校出身。京都大学在学中、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という時代の価値観を揺るがすような出来事に遭遇しショックを受ける。そんな中、建築への希望を見出せる、自然環境のような「せんだいメディアテーク」案に魅かれ、伊東豊雄さんの事務所に入るため上京。2005年に独立して以来、生命のような有機的な建築をつくることを目指して様々な探求を行う。近作に「太田市美術館・図書館」「9hours 浅草」などがある。

写真 ©️Luca Gabino

岩瀨 諒子 | 助教

新潟県うまれ、京都大学工学部卒。同大学工学研究科修了。
EM2N Architects (スイス、チューリッヒ) 、隈研吾建築都市設計事務所における勤務を経て、2013年大阪府主催実施コンペ「木津川遊歩空間アイディアデザインコンペ」における最優秀賞受賞を機に、岩瀬諒子設 計事務所を設立。建築空間からパブリックスペースまで、領域にとらわれない設計活動を行う。
2017年木津川遊歩空間「トコトコダンダン」竣工。

写真:(c) Kanagawa Shingo

田路 貴浩 | 教授

研究目標:「地球環境時代の都市・建築論の構築」
地球環境が危機的局面に向かいつつある今日、人類は近代以来の価値観や社会システムの見直しが迫られています。建築は自然に対抗して人間の居住環境を構築する技術ですが、同時に自然に近づくための芸術でもあります。建築と自然のこのアンビバレントな関係から、未来の人間の住まい方を展望する建築論・都市論を切り拓くことをめざしています。
教育目標:「博士号をもつ建築家の養成」
近年、短期的な実践的研究が奨励される傾向が強まっていて、建築の歴史観や哲学の探究が衰退しつつあると危惧しています。しかし、こんにちの日本の建築文化の高い水準は先立つ建築家、研究者の深くて広い学識によって築き上げられたものです。こうした建築文化の伝統を継承し発展させるために、自分の思想をもってきちんと研究でき、かつ設計もできる人材を育成することを目標としています。
建築設計:研究室では研究をメインに行っていますが、建築設計はアタッチメントという学外の設計事務所で行っています。歴史的なコンテクストが色濃い関西で、伝統や景観、コミュニティなどを「引きずるデザイン drag design」ということを考えています。


神吉紀世子 | 教授

都市・集落の形成履歴を重視しつつ、自然環境、町並み、生活・生業文化の地域性が持続的かつ柔軟に将来展開していくことのできる、空間再編のあり方を研究しています。生活環境がもつ価値や意味を再評価・情報共有しながら継承発展をめざすための人的システムや計画システム提案に、国内外の事例地と協力しながら取り組んでいます。

三浦 研 | 教授

岡山県倉敷市出身.千葉県立船橋高校卒業.建築学科への進学は倉敷の街並みや建築家・浦辺鎮太郎による影響.人の行動や心理にもとづく建築・施設設計・研究に取り組む
2018年度国土交通省スマートウェルネス住宅等推進モデル事業評価委員、2004年日本建築学会 奨励賞、2012年住総研 研究選奨(共同)、2018年建築学会著作賞(共同),
「グループハウスあまがさき」,「ニッケてとて加古川」「ニッケあすも市川」などの設計にかかわる.編著に「小規模多機能ホーム読本」(ミネルヴァ書房)、訳書に「環境デザイン学入門」(鹿島出版会),「いきている長屋」(大阪公立大学共同出版会)ほか

柳沢 究 | 准教授

1975年神奈川県横浜市生まれ。徳島・東京を経て横浜の高校を卒業、歴史と物理が好きで絵がまあまあ得意という理由で建築学科を選び、建都1200年で盛り上がる京都へ。1・2回生時は不完全燃焼だったが、20歳の頃の1年間のバックパッカー生活で建築と旅の面白さに目覚め、以後設計に打ち込む。修士でたまたまヴァーラーナシーを調査して以来、定期的にインドに通うようになりはや20年。2008年の博士学位取得後は住宅やリノベーションの設計業務に励むが、やはり研究をしたくなり、2012年より名古屋の名城大学に着任、2017年に5年ぶりの京都へ。建築以外で好きなもの・ことは、旅・お酒・日曜大工・園芸・漫画・ピアノ・古くて複雑で多様なもの・異種混合のなにか・自分で採集したものを食べること。
インタビュー記事 https://www.thats.pr.kyoto-u.ac.jp/2024/05/29/14515/