建築実習制作物 「編雲」 ~編み物から生まれる 建築の新しいかたち~

1本のひもから生まれる「編み物」には、言葉にできない豊かさがある。
時を超えて愛されてきた編み物から、新しい建築のかたちを考える。
それはゆらめく組積造のような、一目一目の確かな繋がりが柔らかな全体を紡ぎ出す。

学生が主体的に取り組む「建築実習」

建築実習は建築学専攻の修士生が前期に履修できるグループ課題の授業です。学部時代の設計演習と異なる点は、実務経験が豊富な教員のもとで、建築設計における計画から実現までの実践的な知識と技術を学ぶところです。2022年度は、修士1回生7名、修士2回生1名の計8名が建築実習を履修しました。

教員の実施する現実のプロジェクトの補佐を務める事で知識や技術を学ぶ場合や、1/1スケールで学生が実施制作しながら学ぶ場合など、毎年扱う題材は異なりますが、今年度は担当教員の平田晃久先生・岩瀬諒子先生より、

1/1スケールの建築設計・製作において、「動く」「折りたたむ」という思考を重ね、新しい建築の意味や可能性を考える

という課題が与えられ、最終目標として、京都大学桂キャンパスC2棟1階ロビーでの展示を目指し取り組みました。

3つの方向から課題を問う

4月から6月にかけての前半は、案の検討に費やしました。まず第一週目に、履修者それぞれが課題文から着想し自分の興味と関連させたアイディアの種を持ち寄りました。その中でも特に興味深かった「編み物・しかけ絵本・立体折り紙」の3つの方向性から案を考えていくことになり、履修者8名がこの3つのチームに分かれ、お互いに意見交換しながら進めていきました。

 編み物班 : 編み物から着想を得て一目一目の結び付きから建築を考える
 絵本班 : しかけ絵本に着想を得て立体的に広がり飛び出す機構から建築を考える
 折り紙班 : 立体折り紙に着想を得て3次元的に連動して動く建築を考える

7月から9月にかけての後半は1つの案に絞り、全員で1/1スケールで実施制作を行いました。金銭面・時間面も考慮して結果的に「編み物班」の案で実施制作を行うことになりましたが、どの案もとても魅力的で刺激的なアイディアが詰まっていました。

以下に、プロセスやそれぞれの案の詳細について掲載していきます。実施制作に向けて力を注いだ機構や材料の検討プロセスも紹介していますので、1/1スケールでの実作を行う際には参考になるかもしれません。

各班の詳細

編み物班

結び目の構造や結び目同士の関係など、編み物の仕組みを読み解き、建築になり得る要素を探しました。

いろいろなスケールや素材を、重量・強度・径・価格など様々な観点から検討しました。

検討の結果、日常的な素材ですが、編むことで光沢のある軽やかで不思議な空間を生む「PPロープ」を用いることに決まりました。
協力して編み、より大きなスケールでのスタディを重ねました。

編み物をゆらめく組積造であると捉えた時に、その分散した力を整えながら接地する脚部が必要ではないかという考えに到達しました。
編み物の建築化を目指し、「動く・折りたたむ」という事も合わせて脚部を検討し、3案の選定の場へ臨みました。

実施制作の段階では、脚部を構造的に解く際に、3軸の回転を許容する接合部など、想像以上に複雑な機構が必要だと分かりました。
3Dプリンターや既製品を活用し、他研究室の方など様々な人に協力いただいて実現しました。

その他にも様々な検討を重ねました。

絵本班

立体的に飛び出す構造が思いがけない空間を生み出します。本を開いた状態で立ち、ページの開き具合は可変性を持つことで、使い手により様々な空間が生まれます。
そこでは本の森に迷い込むような不思議な体験が生まれます。

飛び出す絵本から派生して、キュービック型の展開家具案も生まれました。
順序立てて折り畳むと1つの立方体へと収束し、時と場合によって展開の仕方を変える事ができるとてもユニークな案でしたが、今回は家具を超えた建築というテーマもあり、実施制作には至りませんでした。

折り紙班

折り紙班 スタディ動画1
折り紙班 スタディ動画2

海外の折りたたみ機構に関する研究(Exploring multistability in prismatic metamaterials through local actuation | Nature Communications)を参考に、ダイナミックに連動する機構を人が中に入り込めるスケールで考え、設計を進めていきました。実施に際して重要となる接合部の機構や素材も合わせて検討していきました。

1か所を動かすことで全体がダイナミックに変形していく様子は、いつか1/1スケールで体感してみたいとワクワクするような案となりました。

おわりに

2022年7月26日から29日にかけての京大での展示が終了した後、接合部作成時の3Dプリンターでとてもお世話になったFabcafe Kyoto様から、展示と簡単なプレゼンを行わないかとお声がけいただきました。私たちの他にもいろいろな作品を制作された方たちが発表される会で、とても有意義な時間を過ごすことができました。

たくさんの方々のご協力のもとメンバー全員で試行錯誤を繰り返し、時に意見をぶつけ合い、時に手がはれるほど力を使って編み、時に笑い合い助け合いながら完成させることができました。

今まででは考えなかったような視点を得て、初めて取り組むような設計・制作を行い、とても濃密な時間を過ごすことができました。

こちらに実施制作のプロセスをまとめた動画と、検討から設置までの考え方や手法をまとめた作品集を掲載していますので、あわせてご覧ください。

建築設計実習