建築からアートコンペへの挑戦 -寺町京極|商店街美術館-

寺町通錦小路北側から見る。

2023年5月に京大建築の学生3人でアートコンペに挑戦し、採用され、8月から9月に制作の上、10月3日から11月28日にかけて掲出された。アートコンペは京都最大の繁華街にある寺町京極商店街の空間を用いて、採用された数点の作品展示を行うというもので、計5作品のうち、私たち以外は芸大の学生の作品を中心に、建築ではない分野の学生の作品が採用された。「建築学生」という立場で臨んだ、提案から巨大な実作の作成までの半年を振り返る。

アートコンペへの挑戦

建築学生はコンペによく応募する。設計課題を応募するものから、施工を前提に応募するものまで幅広い。しかし、たいていの場合、提案するものは「建築」ではないだろうか。

今回私たちの応募したのは、「寺町京極|商店街美術館」という、寺町京極商店街の空中空間を利用して分野を問わずアートを展示するというものだ。建築の捉え方は様々だが、通常は建築に触れた際の空間的な体験が重要となる。一方、このコンペでは作品は下から見上げるだけなので、空間的な表現は使いにくい。

そうした中で考えたのは、作品単体で完成するのでなく、商店街の空間を利用して完成する作品である。平面的に広がる商店街の上での拡張性を想像させることをコンセプトに、錯視を用いてデザインすることにした。作品には、パースを実際より強く設定した商店街の模型を立体的に組み込んだ。こうすることで、例えば、寺町京極商店街を北上して、作品へアプローチすると、錯視により深い奥行きを感じる。徐々に近づき、真下から作品を見上げると、下側から上向きに奥行きを感じる。こうして、商店街が水平方向に四方八方へ広がりをもつのと同じように、上向きに伸びてもいいかもと想像させる。

つまり、商店街を歩くという体験の中に作品を位置づけ、作品を見る向きによりコンセプトを伝えているーある意味、空間を利用した作品だ。作品自体は空間性を持たないが、商店街空間のなかに作品を置くことで空間的な表現を行うことを考えたのは実に建築学生らしい視点だと思う。

Rhinocerosでモデリング途中の作品。

また、次項へも深く関わる話だが、コンペの提案時点で制作方法とコスト面の提案も必要だったことは、建築学生のするコンペとは少し違うと思った。建築の学生コンペは種類にもよるが、たいてい、提案する建築自体は架空であり、実作を前提としたものでないため、コストや制作方法は比較的重視されていない気がする(…もちろん考慮されるコンペもあるが、、、)。そうした中、コンペの提案時点で具体的に必要な材料を積算したことは一つの経験となった。

巨大な作品の実作

このようなコンセプトのもと、提案した作品は、無事、寺町京極|商店街美術館に採用され、実際に作ることとなった。巨大サイズの作品作りは、この作品特有の事情もあり難航した。

制作の様子。人と比べても大きい。

やはり、私たちの前に立ちはだかった最大の問題は作品の巨大さである。この作品のサイズは3000×2000×2000にもなる。私の卒業制作もたいがい大きかったが、それでもサイズは3000×620×500には収まる。この作品はやはり大きく、その分時間とお金がかかる。最終的な組み立ては京大のデザインラボで作ってしまうと、取り出せなくなることがわかり、外部の作業場をお借りして制作した。10月頭の展示開始に向け、院試後の8月中頃には、制作に向けた詳細な設計を行い、8月末から、同級生や後輩、先輩の協力を得ながら作業を始めた。

デザインラボでの作業の様子

作業過程で苦労したのは、普段使わない作業道具と普段とは違う設計だ。この作品では、構造体部分はスタイロフォームを用いているが、スタイロ同士の接合はセメントボンドという普段の建築模型では用いないものを用いた。加えて、色塗りをする面積も桁違いに大きいため、筆ではなくローラーを用いた。これらの道具を使う際は、体を大きく使う必要があり、細かい作業が中心となるいつもの建築模型とは違うところで体力を使うと分かったのも一つ気づきである。もう一つ苦労した、普段とは違う設計については、「スケール」の問題である。具体的には、この作品では、錯視の効果を生むため、1/5から1/15程度までの幅を持ってスケールで連続的にスケールが変化する。そのため、制作過程ではサイズ感がつかみにくく、さらに複雑な角度がつくことも作るのが難しい一因だった。

様々な苦労はあったが、9月をひとつき使い、17人の学生の協力を得て、なんとか作成は完成した。制作過程で巨大だと感じていた作品は、商店街の中ではちょうどよいサイズ感であった。

建築とアート、どちらもまだよくわからない。しかし、一度アートコンペに取り組んでみて感じたのは、建築で学んだことが他でもいきるということ。この作品は、商店街の空間性を考えていたり、コンセプトも商店街の拡張という空間の可能性についての抽象的な提案で、いかにも建築学生の考えそうなことだ。だから、これは間違いなく、機能や内部空間を伴ういわゆる“建築”ではないと思う。でも、商店街の空間体験を変容させるという意味では“建築”だと思う。そして、アートコンペに挑戦し、実作することで、「ものを作る」ということの大変さを再認識できたのも良い経験であった。

これからも、“建築”という眼鏡を通して、いろんな世界を見ていきたいと思う。

寺町通錦小路南側から。吊るしてみるといい感じの存在感。

設計者 青木裕弥(田路研)・本田凌也(小見山研)・宮田大樹(小林・落合研)※当時
施工者 上記3名に加え、17名
予算 60万円(製作費とお手伝いさんのご飯代・交通費など)
設計期間 1か月(2023年5月)
施工期間 1か月半(2023年8月-2023年9月)
寺町京極|商店街美術館 https://tk-museum.kyoto/artwork/artwork04