卒業設計を選択した学生は大学院で暇になる?
一般的に大学での研究活動は3~4年生での研究室配属からスタートします。その後先輩の研究や研究室・教授の方針と自分の興味関心と合わせて卒業論文のテーマが決まり、大学院では卒業論文のテーマを深めていく形で修士論文のテーマが決まってくることが一般的です。(大学や学部・学科で時期や決まり方などに差異はあると思います)。
京都大学の建築学科でも構造系・環境系では同様の形式を踏襲していますが、計画系の卒業設計選択組は少し話が違います。まず、多くの場合卒業設計に継続性がありません。卒業設計はそれがひとつの作品として完結し、また研究などと違いあくまで架空のプロジェクトであるために学部卒業後も継続して取り組み続けるという事例はほとんどありません(※ごくまれに卒業設計で取り組んだものを実作される方もいます)。このあたりは美大などとも共通するところかもしれません。
各系列の詳細が知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
“計画系・構造系・環境系” 多岐にわたる京大建築について。
一方、京都大学大学院の修了要件としては、修士設計が認められておらず修士論文に限られています。周囲の様子を見てみると計画系の修士論文がきちんと軌道に乗るのは早くてM2(修士2年生)の春あたりのようです。また建築系企業の就職活動はM1の秋から冬にかけて少しずつ始まってきています。
ここで勘の良い方はお気づきかも知れませんね。「卒業設計後のM1って夏休みの終わりくらいまでめっちゃ暇じゃない?」ということに。実際に私も「他の学生は何をしているんだろうなあ」と思いながら大学院1年目を送っていました。わたしたちはこの謎を探るべくジャングルの奥地へ潜るのは大変なので、アンケートを実施し、気になった人に口頭でインタビューを実施しました。
研究活動+αに取り組む多くの学生
今回は卒業設計を行った計画系研究室所属学生にアンケートを配布し、およそ半数にあたる12名の学生から回答を得ました。まず「前期(4月~9月末)どんなことに取り組んでいましたか?」という質問に対しては、以下のような回答結果になりました。
アンケートより回答者全員が何らかの研究活動に取り組んでいることが分かりました。また研究活動以外にも最大で6つ、平均で2つの活動を平行しているという結果が得られ、学生が複数の活動に取り組んでいることが分かりました。
回答者のボリュームが比較的大きな項目を見てみます。研究活動に次いで回答者が多いのは就職活動やそれに付随するインターンシップと機関誌『traverse』に関する活動です。
インターンシップでは大学院のプログラムとして参加するものと各学生が個人で応募するものがあります。前者は主に個人経営されている建築家の方のスタジオに約一ヶ月参加するプログラムで、建築士法に基づき建築士試験の受験資格である実務要件を短縮するための単位として認定されます。京都大学では修了単位には認定されないため、各学生の任意での参加になります。後者はいわゆる一般的なインターンシップと同様で大学が関与しないもので、単位認定もありません。周囲の学生を見ているとゼネコンや組織設計事務所などの建築系企業の他、ディベロッパー、広告代理店、コンサルティングファームなどの非建築系企業に参加する学生も少なからずいました。私自身もこの夏は大学院のプログラムとして京都のある建築設計事務所に通った他、個人的に外資系コンサルティングファームのインターンシップに参加していました。
『traverse』は京都大学大学院の学生が編集・発行している機関誌で、現在web上で記事を閲覧できます。
https://www.traverse-architecture.com/
次に多かった大学院の講義ですが、比較的少数にとどまっています。この理由として、修士学生は修了に必須の講義というものがないため、コマ数の多い後期の講義を集中して取る学生が多いためであると考えられます。
設計実習というのは、大学院の講義の一環として海外の建築系コンペに応募するものです。今年度は留学生も含め15名ほどの学生が参加し中国に集合住宅を提案するコンペに応募しています。個人の設計・創作活動としては、設計実習のコンペの他に個人やチームで別のコンペに応募する学生や、木造家屋の改修に取り組む学生などがいました。京都大学は修了要件に修士設計が含まれていないため、各学生の興味に応じて複数のコンペに取り組める素地があることが分かります。
また、回答者にはこうした活動のうち一番力を入れて取り組んだ活動も尋ねました。その結果は以下のようになります。
大学院の研究活動以外の活動をあげた学生が半数ほどいます。これはM1前期がまだ研究に関するテーマを模索する段階であることから、多様な経験の中から自分の興味を見定めていこうとする京都大学の方針が大学院でも活きていることが分かるかと思います。
以上より、研究活動がまだ比較的忙しくない時期であることを利用して、多くの学生が関心のある複数の分野の活動に取り組む2足以上のわらじを履き、アグレッシブに経験を積んでいること見えてきます。各々の活動が細分化されていているために活動内容が伝わらずに、一見すると暇に見えてしまうのかもしれませんね。
traverseの活動について
最後に研究活動に次いで回答者が多かった『traverse』の活動に関して、今年度の編集長を務めた三浦健さん(三浦研究室所属)にコメントをいただきました。
「2018年の4月から半年ほど建築学専攻機関誌『traverse 新建築学研究』の編集長として活動しています。
20年近くの歴史がある『traverse』ですが近年少し体制が変わりつつあります。竹山研究室を中心とした活動から研究室の垣根を越えた学生主導の活動になり、媒体も紙の雑誌からwebメディアに移行しました。そんな中、今年度から初めて竹山研究室以外の学生として編集長になり、他の研究室同士をつなぐ架け橋となることを目標に今も活動を続けています。
夏季休暇中など編集員同士の都合を調整したり、普段使わないような編集用のソフトを使ったりと苦労もありましたが、大学院の講義や研究活動では出会えないような方々とお話できたのは貴重な体験でしたね。例えば名古屋の建築家の米澤さん(※米澤隆さん。米澤隆建築設計事務所主宰)や、京都市立芸術大学の先生やアーティストといった建築業界以外の方々にも取材させていただきました。外部の方の意見を聞くことで京都大学での活動にも振り返って活かせることが多くあり、一見大変だと思うことでもきちんと取り組んでみるといいことがあると学べました。後輩たちにもこの活動を楽しんで取り組んでいってほしいです。」